つらい感情や問題行動は、過去のつらかった記憶が原因となって引き起こされている場合があります。「もう二度とあの辛さを味わいたくない」と無意識に思って、過剰に反応していることが多いようです。単純な痛みを例に挙げると、熱いストーブに触って火傷をした場合、「火傷をするかもしれないからストーブに近寄らないようにしよう」と熱くないストーブさえ避けるような思考回路が作られます。心の痛み(トラウマ)の場合、ほしかった愛情がもらえなかった、奪われたと感じたことに起因します。例えば、転んで怪我をしたとき「痛いね、嫌だったね」と共感してなぐさめてもらえたら、心は傷つくことなく満足するでしょう。でも、もし「転んだぐらいで泣くな、がんばれ」と言われたら、自分の気持ちをわかってもらえないと感じて、心に傷がつくかもしれません。そのうえで、自分はつらくても慰めてもらえない存在だとか、つらくてもがんばらないと愛情がもらえない、という回路が作られる可能性があります。そうすると、いつもがんばらなければいけない、がんばれない自分には価値がないと感じるようになります。みなさんにも多かれ少なかれ、思い通りにならず、心が傷ついたという経験はあると思います。幼いときの心の傷ははっきり記憶に残っていないかもしれませんが感情として反応します。
先日、受診された患者さんは、会社で気をつかいすぎてヘトヘトになるということでした。過去を思い返してみると「父が厳しくていつも気をつかっていました」とおっしゃいました。そんなとき、お母さんはどうしていたかを尋ねると「母にも同じように叱られていました」とのこと。幼いころからずっと、両親に気をつかって育ってきたようです。人に気をつかうのが当たり前になっているので、身近な人、特に目上の人に対して、ずっと気をつかって生きてきたはずです。これまで学校や人の集まる場所すべてにおいて、同じように気をつかって疲れてきたと推測できます。このように不調が続く場合や、同じようなトラブル、ストレスを繰り返す場合、過去の心の傷を癒やすことで、同じようなつらい感情を感じる出来事が繰り返し起きることを防ぐことができます。スピリチュアル的には、「悲しい」といった感情をしっかり感じるために、同じような出来事が繰り返し起きている(自分で起こしている)と表現することもできます。
「今」に意識を向ける
心の傷を癒やすために重要なのは、まず「今」に意識を向けること。過去の記憶が蘇ることで苦しくなっているので、意識が今をしっかりと感じていると、つらさが減ります。今に意識を向ける魔法の呪文です。「今、生きている。ここで生きている」この言葉を繰り返し唱えましょう。この言葉は、ただ単に事実の確認をしているだけです。そこに良い悪いの価値観はありません。生きているから気分が落ちることもあるし、痛みを感じることもあります。その気分や痛みさえ、生きている証拠です。ただこの言葉を唱えて、今生きていることを確認すると、少し魂が喜ぶような感覚が生まれます。少しエネルギーが動き出します。
気持ちが少し落ち着いたら「今までつらかったね。つらいのによくがんばったね。がんばった私ってえらいね。すごいよ」と自分自身をねぎらい褒めてあげましょう。この言葉も繰り返し、何度も何度も自分に言ってあげましょう。小さい子が怪我をして泣いているときに「よしよし痛かったね、つらかったね」となぐさめるように、大人の意識の自分から傷ついた子どものころの自分(インナーチャイルド)に対して言ってあげましょう。心が癒やされてくると、それまで問題だと思っていたことが、問題だと感じなくなっていきます。そして、穏やかな気分で過ごす時間が増えていきます。