芭蕉科の植物には、食用のバナナのなる実芭蕉や、紙や布の原料に使われる糸芭蕉があります。今回紹介する扇芭蕉も、かつては芭蕉科に分類されていました。宮古島でもよく目にする植物で、実芭蕉や糸芭蕉と同様に2メートル程度の葉っぱを持ち、5メートル以上の高さに成長します。左右対称に葉っぱを広げた様子が扇状であるため、扇芭蕉の名前がついています。外見上はやはりバナナのようにも見える実をつけますが、固い殻が割れると、中から自然の造形物とは思えないくらい、美しい青色の毛に包まれた種が現れます。
「旅人の木」の異名を持つことも、ロマンチックな印象を抱かせます。「葉っぱの根元に溜まる雨水が、旅人の喉の渇きを潤した」という説はさらにノスタルジックなのですが、実際には水の豊富な場所で育つ扇芭蕉から、わざわざ綺麗でもない水を飲むという状況は考えにくいようです。「葉が東西方向へ扇状に広がって旅人に対するコンパスの役割を果たす」という説も、実際に当てはまっていないそうで、人が勝手に名付け・広げてしまったようです。
最近になって、植物分類上においても、実は芭蕉科ではなく極楽鳥花科に属するということもわかってきたようです。かつては構造上の特徴から植物を分類してきましたが、現在は遺伝子解析技術がよりリアルに進化の過程をひも解いてくれるようになりました。植物の進化のカギをにぎる突然変異は、DNAの塩基配列に1箇所だけ、アデニン・グアニン・チミン・シトシンの異なる塩基で置き換わっている部分に発見できます。
人が勝手に「芭蕉科の旅人の木」と呼んだ扇芭蕉、ご本人は意に介するはずもないですが、今後どのように進化していくのでしょう。