前号までの記事では、おおよそ1万年前に始まった農耕の歴史を、人類が植物の「突然変異」を利用した事例を使って紹介しました。それは偶発的に生まれた変異種を人類が見つけ、発展させる過程でした。今号では人類による積極的な品種改良の歴史についてご紹介します。
●長さ1センチメートルのトウモロコシ
現代の私たちが食べているトウモロコシは改良されたものです。原種のトウモロコシは、粒がついた軸部分の長さが、約1センチメートルでした。しかし、種蒔きから栽培、収獲、種取りまでのサイクルを繰り返していくなかで、良く育ったトウモロコシから次の種を取る選抜と育種がおこなわれ、数千年かけて、少しずつトウモロコシの形や質を進化させ、現在のがっつりと食べ応えのあるトウモロコシが生まれました。今では最も大きなものでは、軸部分が45センチメートルに達するものもあるそうです。
同様に、リンゴの原種は現在のものの約3分の1のサイズだったようです。また、エンドウ豆の原種も現在のものの約10分の1の重さだったようです。
これらは周囲の環境に合わせた植物自体の進化や変化に併せて、先人たちの気が遠くなるような改良の歴史を経て、今の豊かな食が支えられているのですね。
●キャベツ油
「キャベツから油が採れるの?」と思われる方も多いと思いますが、キャベツの原種は、種を搾って油を取るために栽培されていました。これは現在でいうところの菜種油やゴマ油のようなものでした。その後、キャベツはさまざまな方面に進化を遂げます。葉っぱの部分が美味しいので、これを進化させたのが現在のキャベツで、茎を進化させたのがコールラビで、脇芽や蕾を進化させたのが芽キャベツやブロッコリー、カリフラワーになりました。
これらの野菜は今や当たり前のように食べられていますが、その進化は自然の営みと先人の努力のおかげであることがよくわかります。未来に向けて私たちが残せる技術や進化の可能性についても考えさせられますね。
※この記事の農耕の進化や改良については、「銃・病原菌・鉄(上巻)」ジャレド・ダイアモンド著を参考にしています
しっかりした食べ応えの現在のトウモロコシ