触診によって身体の内側の状態を把握し、それに応じた鍼灸の治療やセルフケアの方法を提供する、鍼灸師の中間善也氏。院内に入るだけですっと全身の力が抜けるような、清々しく心地のいい空間づくりも大切にしています。ここは、病院に行っても不調が改善せず、不安と悩みを抱える人の駆け込み寺。中間氏が長年伝え続けてきた、誰もが習得できるという「手感力」について話を伺いました。
こころはり灸治療院
中間 善也(なかま よしなり)
奈良県生まれ。はり師、きゅう師。幼少期から空手や剣道などの武道に親しむ。高校から大学まで日本拳法に夢中になり、東日本で個人3位、全日本で団体戦優勝の成績を残す。日本拳法三段。診療所や整骨院での勤務を経て、2006年こころはり灸治療院を開院。独自に開発した「手感力®」を広めるべく、手感力®協会理事および講師として、治療以外にも講座やさまざまな商品の開発もおこなっている。リラクゼーションスペースCOCORO こころはり灸治療院:https://www.cocoro-acupuncture.com/
触れてわかる
鍼灸師になりたい
—— 子どものころから大学時代まで、武道に熱中していたのですね。
父親が警察官だった影響で、幼いころから空手や剣道を習っていました。子どものころは、寒いなか練習に連れて行かれることや、厳しい指導が嫌で、仕方なくという感じでしたけど。続けるうちに大会で入賞するようになって、自信がついたのはよかったと思います。奈良県の大淀高校に進学したら部活動に日本拳法があって、「あ、これでいこう」と。初めて自分でやりたいと思うものに出合った瞬間でした。勉強の成績は中の下ぐらいだったかな、つまり下なんですけど(笑)。スポーツ推薦で国士舘大学に入学してからも、ひたすら日本拳法に没頭していました。
—— 鍼灸に興味を持ったきっかけはなんでしたか。
大学3年生のときに、東日本総合選手権の個人部門で3位入賞、全国大会の団体戦で優勝しました。大学最後の年はもっと上を狙おうと考えていたところ、春合宿で足首に怪我をしたんです。それまでも捻挫や打撲は当たりまえでしたが、いつもと違う痛みに戸惑いました。自分で湿布を貼って様子を見ていたけど、1週間経っても治らない。整形外科を受診したら、医者が「レントゲンを撮りましょう」と言うんです。心のなかでは「いや、レントゲンを撮ってもなにもないことはわかってますけど」と思うんですけど、言えないので。そして「中間くん、なにも問題ないね」「湿布を貼って1週間様子を見ましょう」と。それで治らなかったから来たんだけど、もっと時間が必要なのかなと思ってその通りにしてみたら、やはり変わらない。ここではダメだと思い、柔道の先生に相談すると、スポーツ界で有名な整形外科を紹介してくれました。そこでもまずレントゲンを撮ったのですが、前の先生と違ったのは、足首をちゃんと触って診てくれたことです。「こうしたら痛い?これは?」と動かしながら。理学療法科もあり、電気を当てて薬も塗ってくれたのですが、それでも治らず、結局大会には出られませんでした。それまでずっとレギュラーだったので、出場しなかったのは初めて。そしたら、その大会で私たちの部が優勝したんです。応援していて複雑な心境でしたね。審判員長の方に出なかった理由を聞かれて、怪我のことを話したら、鍼灸院を紹介してくれました。当時は、鍼を刺すと聞いてまず怖いなと感じました。でも早く治したいし、足首がだんだん硬くなってきていることに不安も出てきていたので、藁をもすがる思いで行ってみたんです。すると、その先生は足首だけではなく、ふくらはぎやお尻まで触って確かめている。そして、「中間くん、足首を痛める前にふくらはぎを痛めたでしょ」と言われました。確かに、春合宿で走っている時につったような感覚がありました。「それが原因だね」と。身体に触れているだけなのに、「この人、怪我するところを見てたのかな」と思ったぐらい、本当に驚きました。鍼を打ってもらったらすごく楽になって、一回の治療で、屈伸ができなかったのができるようになった。楽になった喜びと、感動がわき上がりました。そのときに、きっと私と同じように病院に行っても治らなくてつらい人がいっぱいいるだろうから、そういう人に鍼灸のよさを伝えたいと思ったんです。手で触れてわかる鍼灸師になりたくて、卒業後に3年間、鍼灸の専門学校に通いました。
すべての体調不良は
皮膚表面に現れる
—— 専門学校での学びはどうでしたか。
実技では経絡に沿って鍼を打つ方法などを習うのですが、それはあくまでも教科書に書いてある通りです。入学してから、鍼灸の先生は手で触れてわかる人ばかりではないのだと知りました。たまたま2年生のときに、「鍼の打ち方も大事だけど、打つ前にツボの反応を診ることが大事だよ」と言う先生と出会えて。ツボの反応ってなんですか、というところから始めて、人の身体に触れながら「ああ、これか」と一つひとつ体感していきました。それ以降、手でツボの反応を感じ取ることの奥深さにはまっていったんです。
—— ツボの反応とはなんですか。
皮膚の表面を、100g以下のごく軽い力で触れると、張りがあるところと沈むところがあります。その違いがツボの反応です。沈むところは奥下の筋肉が硬くなっていて、血流が悪く、こわばりや凝りの原因になっています。もっというと、筋肉の緊張は内臓の不調から引き起こされます。体内のなんらかの炎症が交感神経を興奮させることにより、筋肉が緊張して皮膚の表面に変化をもたらすのです。冷や汗をかく、鳥肌が立つ、身震いするなども、緊張したときに現れる皮膚の変化ですね。じつは、皮膚は身体のなかで最も敏感な臓器。身体の内側の状態を如実に映し出しているんです。私たちは2006年に治療院を開業して以来、指先で皮膚に触れて身体の状態を感じ取る力を「手感力」と呼んで、患者さんの体調改善に役立ててきました。
—— 内臓の不調が筋肉の緊張につながるとは意外です。
たとえば風邪の引き始めや喉が痛いときに飲む葛根湯が、肩こりや首のこわばりにも効能があるのは、喉の炎症が首や肩の筋肉を緊張させるから。喉の炎症を取ってあげると、自ずと首や肩も改善します。コロナも喉にくるウイルスでしたから、感染した方は首や肩がしんどかったのではないでしょうか。
当院では美顔鍼などの施術もおこなっているので、美容で悩む若い方も多くいらっしゃいます。脚のむくみは、女性なら子宮や膀胱が関係しているし、ニキビは胸腺や腸、肝臓などの内臓が関係している。鍼灸をしてツボの反応を診れば、悪化したときには「こういうものを食べたよね」「冷えているよね」などと不調の原因がわかります。「この先生わかるんだな」と信頼してもらえたら、自宅でセルフケアをしていただくのもスムーズです。内臓をさすったり、優しい食べ物を選んだりと、弱っている内臓を労わる生活習慣にシフトすることが大切で、治療だけでは根本の改善にならないからです。「疲れ」という字は、やまいだれに皮膚の皮と書きますよね。結局、疲れも顔色に出たりと皮膚に現れるんです。酷いニキビで悩み、写真に写るのが嫌だと言っていた20代の男性は、鍼灸とセルフケアで、半年ほどできれいな肌になりました。鍼灸で身体が変わる喜びと驚きを提供したいのと同時に、ここでのご縁をきっかけに、セルフケアの大切さにも気づいてもらえたらと思っています。さらに、自分自身でツボの反応を感じ取れるようになれば、いつでもどこでも自分の体調を把握することができます。手感力は、トレーニングすれば誰でも身につけられるものなんですよ。
—— どうしたら習得できますか。
ツボの反応が出るところならどこでもいいのですが、自分の身体で一ヶ所、触れる場所を決めておきます。そこに指を置いて、ごく軽い力で触れながら、もう片方の手で色々な物を触ってみる。その時に現れる反応の違いを追っていくのです。自転車に乗れるようになるのと同じで、最初はうまく感じられなくても、次第に感覚を掴めるようになります。脳のなかの新しいシナプスがつながるようなものです。いったんコツを掴めば、自分の身体の状態に応じた手当てができるので、一生使えるツールになります。
—— 手感力によって、より健康でいられる可能性が広がりますね。
なるべくツボの反応がよくなる場所に行こう、よくなるものを持とう、よくなるような手当をしようと気づけるようになるのが、手感力。鍼灸師だけでなく、一般の方々にこそ手感力の使い方を発信していきたいと思います。
自分にとっての「快」を
選び取る大切さ
—— よりよくなるために、独自に開発されたグッズや電磁波対策も活用されています。
森修焼の美顔ローラーや数字のカードなどですね。長年、プレマさんが勧めている電磁波対策も続けています。これらを手で持つと身体がゆるんで、明らかにツボの反応が改善することがわかっています。目に見えないものに対しても、私たちの身体は確実に反応しているんですね。私はツボの反応が変わるもの、つまり身体が楽になるものなら、鍼灸以外の方法でもいいと思っています。手感力を研究していくうちに、自分に合うものならどんなものでもいいのだと気づきました。たとえば天然石などでもいいし、数字や色でも、ツボの反応って変わるんですよ。ツボの反応を通して自分を知ることは本当に面白くて、持ち物や食べるもの、場所や人との相性など、なにかを選択するときのあらゆる場面で使えます。物も情報もあふれている社会において、なにを選んだら自分が楽になるのか。それを感じることこそ大切なのです。私は旅行の行き先なども、写真や地図に手を置いて、ツボの反応を診ながら選んでいますよ。やむをえず合わない空気の場所に行ったときも、ツボの反応を診ればどこかに落ち着けるスポットがあるはずなので、そこにいて自分を守ることもできます。
その一環で、最近院内に一畳ほどの「オルタナティブアース・アースシールドルーム」を設置しました。空間を整えることは、思っているよりも重要なことです。電磁波を遮断したシールドルーム内は、昭和30年代の空間だといわれていますね。25年ぐらい前はポケベルだったのが、Wi-fiになり、スマホが登場して、周波数も通信量も急速に上がる一方です。おそらく昭和30年代の人が2023年に来たら、つらくなるはずです。でも私たちは徐々に環境に慣れているので、自覚がないまま身体にダメージを受けている可能性があります。16年前に開業したころは、耳鳴りや腰痛などの症状が主でしたが、最近はメンタルの不調を訴える方が増えています。病院では問題ないと言われるけど、つらいものはつらい。そんな方のツボの反応を診ると、やはりよくない反応が出ています。多くの方はストレスが増えると旅行に行って非日常の体験をしたり、美味しいものを食べたりして解消しようとしますが、それはあくまでも一時的なもの。今の生活空間で工夫できることをすれば、身体はもっと楽になります。つらさを軽減する空間を持つことも、そのひとつです。快適でいるための無数の選択肢のなかから、自分に合うものを選び取ること。選ぶ基準は、なにが本物でなにが偽物かではなく、自分に合うか合わないかです。偽物だといわれても、自分にとって快適ならいいじゃないですか。他人と違っていてもいいんです。
—— たくさんの患者さんを診てこられて、健康でいる秘訣はなんだと思いますか。
やはり意識ではないでしょうか。こういってはなんですが、肉体はしょせん消えてしまうものですよね。どんなことが起きても、意識の持ちようによって、自分の身体は「快」にも「不快」にもなれると思うんです。ストレスは、脳が作り出すもの。ネガティブな感情によって交感神経が興奮すると、炎症を引き起こす活性酸素が生み出されます。それを変えられるのは、思考です。交感神経が興奮するような思考を瞬時に切り替える方法を知っていることが、健康の鍵なのではと思います。自分の頭だけでは限界があるときには、空間そのものを切り替えるとか、お笑いを見て爆笑するとか。外の力も大いに借りたらいいのではないでしょうか。
—— 今後どのようにしていきたいですか。
まず、手で触れて身体が楽になる鍼灸のよさを、あらゆる世代に伝えていきたいですね。鍼灸になじみのない若い方でも、たとえば最初は美容の悩みで来ていただいて、鍼灸のよさを実感すれば、30代、40代、50代と、人生のあらゆる年代の悩みに鍼灸を役立ててもらえると思います。そして、手感力の技術を一人でも多くの人に教えて、その人たちが次の人へと伝播するように広めていってほしい。みんなが自分の「快」を生きられる世の中になるといいなと思います。