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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

2017年を振り返る

投稿日:

毎年同じことを感じますが、もう年末になってしまいました。年齢を重ねるごとにそのスピードが加速していく感覚は、悩ましく感じつつも充実しているからだ、と考えるようにしています。今年はプレマ株式会社も第二創業ともいえる大変革の年になりました。

食品製造に着手

十七年間、ひたすらに「持続可能で」「価格以上の価値があり」「作り手の愛と情熱を感じ」「正直で真っ当であって」「人に元気を与えるもの」というキーワードを大切に品選びをし、お客様に提供してきました。とはいえ、自ら創り出すという設備も場所も持っていませんでしたので、作っていただいたものを選び出し、仕入れ、販売することが中心でした。一足先に農業はスタートしていますが、本社のある京都ではなく、遙か遠く宮古島でのプロジェクトですので、多くのスタッフにとっては実感のないものでした。昨年の移転を機に、メインオフィスでのものづくりを指向し、実際にお客様にきていただいて召し上がっていただく場を、四月にスタートすることができました。自然食にまつわる知見をすべて投入した他にないジェラートからの出発、春から夏にかけては行列いただくこともある人気店になることができました。先ほどの品選びキーワードの列挙が、そのまま私、または私のチームが創り出すものにあてはまるよう、全力で取り組みました。おそらく日本一のセレクションが揃ったヴィーガンやノンミルクのジェラートは、日本人はもとより、外国からのお客様にも大変好評で、むしろ英語での口コミのほうがずっと強い印象を受けています。欧米からのお客様の少なくない方が、京都滞在中ほぼ毎日のようにお店にやってきてくださり、「こんなにおいしいジェラートは世界中探してもない」と言っていただくたびに、「真っ当な素材と製法で必死に取り組むだけで、どの国の方にも評価していただけるんだ」という自信にも繋がりました。

何よりうれしかったのが、アレルギーをお持ちのお子様やお孫さんのためにと遠くからご来店いただき、「この子の生涯初めてのアイスクリームです」「不憫で仕方なかった孫のためにやってきたけれど、こんなにうれしいことはない」と涙を流していただいたことです。私も毎回もらい泣きしてしまいますが、このようなことは自分で創っていないと体験できないことだと思います。さらに、どのような食嗜好の方にも楽しんでいただけるようにと、必死に研究を重ね、ミルク入りのジェラートからの全ての乳化剤を排除することにも成功しました。乳化剤なしのアイスクリーム類はあるといえばあるのですが、卵を大量に使っているか、乳化作用自体を放棄したもので、食べるとジャリジャリと氷が舌に触るものばかりです。合成乳化剤=洗剤を使ったジェラートにも、勝ることはあっても決して負けない最高のなめらかな舌触りと濃厚さを引き出す。乳化剤以外の素材の組み合わせでそれを達成できた瞬間は、私にとっても忘れられないものです。この特殊な技術は、ぜひ氷菓に関わるメーカーさんにはぜひ広くご活用いただきたいと考えており、乳化剤をゼロにして、乳化剤入り以上の味とテクスチャーのジェラートを世界中に広めてゆきたいと考えています。

新卒者が続々やってくる

以前は、積極的に新卒者の採用を典型的な方法で行っていたこともありましたが、この数年は、あえてそのような活動はしてきませんでした。時間とお金を使って採用活動をすることよりも、会社としての魅力を高め、広めることに重点を置き、全く新卒採用の告知をしていないにもかかわらず、春には二名の新卒者を迎えることになりました。典型的な創業者タイプである私の無茶な指示や話を、ときに困惑し、ときに目をキラキラさせながら聞いて、確実に成長してくれています。彼女たちがこれから先の会社や持続可能な社会を支えてくれることは間違いないと確信し、来年以降はさらにお客様とお会いすることも多くなると予想しています。もし、お会いになることがありましたら、ぜひ励ましていただけるとうれしいです。

不寛容の時代に

今年の世相は、自国の利益を最優先にするというキーワードからはじまり、ミサイルを巡ってもまた同じ流れが世界を覆っています。人の意識のレベルでいえば、「何か好ましくないことが起きるのは、誰かのせい」という流れが個人の些細なことにまで広がっている印象を持っているのは私だけではないでしょう。栓をひねれば水が出て、スイッチを入れれば電気が灯り、電車に乗れば時刻通りに、宅配便のドライバーは時間指定を守って当然というのは、すでにあたりまえになってしまいました。あたりまえの出来事の陰には、無数の努力が重なっており、誰かが大きな犠牲を払っているのかもしれません。

水が出ない、電気が来ない、線路は破壊され、車が走れなかった二〇一一年、私たちは生きていることだけでもありがたいと心から思ったはずです。あたりまえでないことが起きたとき、どのような解釈をその出来事に見いだすかは、その人次第です。「なんで自分の快適さを奪うのだ!」と怒り呪うことも、「ああ、今までは意識したこともなかったけれど、やっぱりありがたかったなぁ」と改めて感謝することもできる自由が私たちにはあります。今年をありがとうで締めくくれるよう、共に、ありがとうで過ごしましょう!

 

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プレマ株式会社 代表取締役
中川信男(なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。
保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

- 中川信男の多事争論 - 2017年12月発刊 vol.123

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