この夏にオープンしたプレマルシェ・ジェラテリア中目黒駅前店。
お越しいただいた方はご存じかと思いますが、実は築五十年以上経過した非常に古い鉄筋コンクリート造の建物です。
建築年は昭和三十七年(1962年)ですから、もう五十六歳ということになります。
国税庁が定める減価償却資産の耐用年数は四十七年とされていますので、基本的にもう資産価値はない、という長い時間が流れている一方で、この建物は2回の東京オリンピックを経験することになる予定です。
私はこのことに気づいたときに「自分が使うのに最もふさわしい建物」と勝手に喜んでいました。
古さを良さに変える実験
よく欧州に旅する私は、百年以上経過した建物が普通に使われている風情と工夫を感じつつ、かたや歴史都市であるはずの京都に乱立するマンションやオフィスビルに幻滅したことは数えきれません。
確かに、景観保全地区の一部や神社仏閣は古い木造建築が現存しているわけですが、奇抜なデザインの京都駅に降り立つたび、押し寄せる旅行客の目に、この建物はどう写っているのだろうかと気になります。
人の生活の匂いがする場所こそ、時間の流れを感じられる風情であるべきだと思うのですが、この国では残念なことに古いものはバッサリ取り壊し、さっさと作って新しくするというのが基本的なスタンスなのです。
スーパーにいけば、和食が無形世界文化遺産に登録されたと浮き足立つポップを横目に、超促成で作られた「発酵食品もどき」が幅をきかせ、漬物やキムチですら乳酸発酵していないものが大半という悲しい現実もうなずけます。
時間をかけて発酵させた発酵食品、急がずゆっくり愛情込めて作られたものだけを販売してきた私が、古い建物だからと、こぎれいに見えるように粗隠ししてしまっては意味がありません。
店を作るにあたっては、積年の変化を覆い隠すように表面にだけ貼られた石膏ボードと壁紙をすべて撤去し、建てられた時のままの風情をもう一度復活させてみたのです。
こんなリノベーションをして、建物の古さを良さに変える実験を済ませたら即、今度は京都のチョコレートラボに着手しなければなりません。
東京から重い足を引きずって京都の本社に帰る道すがら、目についたのがまた昭和四十年の物件でした。
時間をかけて、素材の良さを徹底的に引き出す作業をするにはうってつけの場所です。
こちらもまた、時の流れの奥深さを、やってくる人に深く印象づけるような、そんな場所にしたいと意気込んでいます。
お化粧をすべて引き剥がし、もう一度ゼロからスタートする。
建物とほぼ同じ年代の、私の選択です。