前回はヴィーガンに不足すると思われがちな栄養素であるたんぱく質について書かせていただきました。本稿はたんぱく質と同様にヴィーガンの食事に不足すると思われがちなカルシウムと、丈夫な骨を作るためのお話です。
本題に入る前に、菜食主義の分類と私が実践している食事法について整理をしておきます。「ベジタリアン」という言葉は、乳製品は食べる「ラクト・ベジタリアン」、卵、乳製品は食べる「オボ・ラクト・ベジタリアン」、卵は食べるけれども乳製品は食べない「オボ・ベジタリアン」、そして卵、乳製品だけでなく蜂蜜など動物性食品を一切食べない「ヴィーガン」に分類されます。動物性食品を食べない理由は、殺生をしたくないということや健康上の理由などさまざまです。ですから分類の方法もさまざまです。
私はヴィーガンですが、食事によって健康を維持促進することを目的としていますので、動物性食品を一切排除するというだけでは不十分で、プラントベースホールフード(植物性の食材をできる限り精製加工しないで食べる)が重要と考えています。
カルシウムは乳製品からの摂取が効率的なので、牛乳を飲まないとカルシウムが不足すると思っておられる方が多いのですが、乳牛は草しか食べません。このことは牛を介さなくても緑の葉っぱからカルシウムを摂取できるということを示しています。
カルシウムパラドックス
確かに牛乳には多くのカルシウムが含まれ、吸収率も野菜の約2倍です。しかし、乳製品を摂るほどに骨が弱くなるということを、乳製品を多く消費する国や地域ほど骨折が多いという複数のデータが証明しています。
その理由は、牛乳の主要たんぱく質のカゼインが腸管でアンモニアを発生させ、そのアンモニアを尿素として排泄させる過程で酸が作られ、その酸の中和に骨や歯に貯えられているカルシウムが使われるからです。そのため、牛乳を飲めば飲むほど骨が弱くなるのです。
骨粗しょう症はカルシウム摂取の不足ではなく骨の萎縮により引き起こされます。骨粗しょう症予防に大切なのはカルシウムを多く摂取することではなく、骨からのカルシウムの喪失を防ぐことです。
丈夫な骨のためのその他の要素
丈夫な骨のために必要なカルシウム以外の栄養素として、カルシウムの吸収を助けるビタミンDの働きが重要です。不足するとカルシウムの腸からの吸収や腎臓からの再吸収が不十分となります。カルシウムは吸収されにくい栄養素なので、吸収を助けるビタミンDの働きが不可欠なのです。
丈夫な骨の話から反れますが、ビタミンDとKが不足すると骨を強くするはずのカルシウムが骨に沈着せずに血管に沈着して動脈硬化を起こしたり、体中のさまざまな臓器・組織の石灰化を招き、腎臓から排出される際に尿路結石をつくります。ビタミンDとKは過不足なく必要です。
丈夫な骨を維持するもう一つの要素である「骨質」についても触れておきます。骨の構造は、カルシウムをコンクリート、コラーゲンを鉄筋として、鉄筋コンクリートに例えられます。いくらコンクリートがあっても、丈夫でしなやかな鉄筋がなければ良い鉄筋コンクリートができません。鉄筋の部分となるコラーゲンを作るためにビタミンC、B6、B12、葉酸などの栄養素が必要となります。
部分ではなく全体を見る
丈夫な骨=カルシウムという単純な話ではなく、私たちの体はさまざまな栄養素が複雑に影響し合って構成されています。カルシウムという一つの要素だけを見るのではなく、植物性の食材をなるべく精製することなくいただいて、さまざまな栄養素をまんべんなく摂取することが大切なのです。