こちらのコラムでは主に栄養に関するテーマで寄稿していますが、今号からは当院のもう一つの柱である形成外科の分野について書いていきます。先月号の「小児栄養外来」の文中で少し触れましたので、今回は小児のあざ治療についてです。
当院はお子さんのあざ治療を積極的におこなっています。私は1988年に日本で初めての血管腫用色素レーザー治療を担当する機会に恵まれたことをきっかけにレーザー治療に携りはじめました。1992年にはアメリカで入れ墨除去用に開発されたレーザー装置を日本に導入し、青あざの治療に応用するなどアジア人特有のシミやあざ等の治療法を確立してきました。そしてほとんどのあざは治療開始年齢が低いほど治療効率が良いと気づき、「小児あざ外来」を開設し治療を続けています。
「できるだけ早いうちに」とは0歳、それも早い月齢から治療を開始するということです。私が赤ちゃんのあざ治療を推奨するようになって30年程経ち、さまざまな機会に『子どものあざ治療は赤ちゃんのうちに』と講演や執筆を通じて啓蒙してきました。しかし、未だに小児科や皮膚科であざの相談をしても「様子を見ましょう」や「安全に全身麻酔ができる1歳まで待って治療を開始しましょう」と言われ、わざわざ1歳まで待つケースが多いのが現状です。まずは早期治療開始が良い理由を説明します。
0歳時に治療を開始する利点
子どもの皮膚は薄く、大きくなるにつれ厚くなります。皮膚が薄いうちであればレーザー光がターゲットである血管や色素に届きやすいので治療効果を得やすく、弱い出力で充分な効果が得られやすいためレーザー照射に伴う痛みも少なくて済みます。成長とともに身体が大きくなればあざの面積も大きくなるので照射範囲が広くなり、治療に時間がかかります。また日焼けは治療の妨げになるので、外遊びが活発になる時期や保育園・幼稚園での活動が始まる前に治療をおこなえば紫外線ケアの負担が軽くなります。赤ちゃんのうちなら照射時に泣いてしまっても、すぐに平気になることが多く、自分のあざの記憶を持つことなく成長できます。さらにほとんどの自治体が乳幼児の保険制度を設けているので、ご家庭で負担される治療費は最低限で済みます。
効率よく治療効果が得られる時期をわざわざ逃して、自我と抵抗する力が増す時期まで様子を見るメリットは極めて少なく、必須でない全身麻酔も回避したいものです。当院では様子をみるのではなく、早期に治療を完了させることを目指しています。
ご本人だけをお預かりする理由
レーザー治療は多少の痛みを伴うことが多く、外用の部分麻酔薬を使用して痛みを軽減する工夫をしても、患児さんは処置室に入るだけで、泣いたり嫌がったりされる場合があります。保護者が照射の立ち会いを希望される場合もありますが、基本的にご本人だけをお連れします。レーザー光から眼球を保護するため、処置室の全員がレーザー波長に合致したゴーグルを装着し、患者さんには目隠しをします。お子さんなら怖くなってしまうでしょう。その状況で保護者の声や気配を感じているのに止めてもらえなかったという感情を残すのはかえって可愛そうです。治療を終え、保護者のもとに戻って、終わったことを実感し、がんばったことを褒めてもらえることで、ご家庭の信頼関係が続行できると考えています。
あざと一言で言っても、赤色、青や茶色に見えるもの、隆起が見られるものなどがあり、発現時期、部位もさまざまです。すべてのあざが簡単に消えるわけではありませんが、治療のスタート時期により仕上りが左右される場合があります。まずは専門の医師の診断を受けていただくことを強くお勧めしています。