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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

不快な症状から学ぶ

投稿日:

腰痛がひどいのはつらい。痛みは身体からのメッセージだとすると、この痛みは、なにを自分に伝えているのだろうか。

痛みや腫れ、かゆみなどの症状は、身体が不快感を生じさせることで、伝えなくてはいけないことがあると、自分に知らせてくれている。それは身体が不快な症状を出さなくてもいい状態に、身体やこころをもっていってほしいというメッセージで、細胞や気、血などの自分を形づくっているあらゆるものからの切実なる願いでもあるような気がしている。

単に腰痛といっても、状況はさまざまで、負担のかかる姿勢からくるもの、冷えによるもの、悪性腫瘍の骨転移という大変な事態であることも、脊柱管狭窄症やヘルニアなどの診断にいたる場合もあるだろう。「腰」の漢字を見ると、肝腎かなめ、つまり内臓の要と書く。身体の構造的には腹と腰は表裏の関係なので、腰の養生のためにはお腹をしっかりととのえることも大切だ。漢方では、腰は生きる力のもとである腎臓と関わりがあるといわれている。

わたし自身、日頃の自分の弱点が腰にきやすく、身体の使い方の癖も腰に影響をあたえてしまうようだ。疲れがたまったり、寝不足になったりすると、定期的に身体からの知らせが腰の痛みとしてやってくる。実際に腰にしっかりとした凝りがあるので、温めたり、鍼や灸をしたり、マッサージやあらゆるアプローチを試したりして、よりよくなる方法を日々探っている。ただし、自分が患者さんにできるような治療が、自分の腰にはできないジレンマもかかえている。だから、仕事中や生活のなかの自分の身体の使い方の癖を知ることで、少しでも腰の痛みが減るような模索をし続けている。

心地よい動きをとおして、自分の凝りかたまった関節をゆるめる発想の「操体法」というものをつくり実践していた医師の橋本敬三という先生がいらっしゃったようだ。いつの時代も既存の医療の枠だけでなく、日々の自分の営みのなかで、少しでも楽になるための模索がされていたことは興味深い。科学的でないと否定するだけでなく、なにかしらの学びがありはしないかと探ってみることは、苦悩やつらさを減らしたり、いま少しでも楽になることにつながるのではないだろうか。

社会は風邪に厳しくなっているが、本当に風邪をひいてはいけないのか。風邪をうまく活かせば、自分のなかの日々の滞りをデトックスする「チャンス」になることもあるのではないだろうか。頭痛や鼻汁、咽頭痛などの症状に対して、解熱剤や鎮痛薬などの薬で、症状に蓋をするだけではない方法で身体を楽にすることは、とても大切な視点だと思う。手っ取り早く良くなろうとする選択肢が多いなかで、その価値が見落とされてしまっている気がするのだ。風邪をひいたとしても、身体を丁寧にととのえるようにすれば、身体は免疫力を十分に発揮できる。すると、日頃くすぶっていた慢性的な炎症さえも、一掃するチャンスにもなりうることがあるのだ。このことは、自分の身体からも、患者さんからも、学ばせてもらうことがたびたびある。

昨今、症状が出てはダメという考え方になりがちだ。症状は悪いもの、敵という視点でとらえられていることが多いように感じる。あらゆることに共通すると思うのだが、敵と認識している間は、敵にしかならなくなる気がする。その認識が続けば、いずれ表面的な自覚症状では済まなくなり、深く込み入った状態になってくるかもしれない。すると、単純なアプローチではなくなってくる。

できれば自分でできるアプローチに、身体が少しでも反応するような、本来の自分が持っている治ろうとする力を自然に発揮できる身体づくりを、丁寧に、地道に探しながら目指していきたい。

- ながれるようにととのえる - 2023年2月発刊 vol.185

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