前々号から、当初は歓迎された外来種が、のちに嫌われ者になった事例を紹介しています。3回目の今号では、地球規模に視野を拡げ、人類に甚大な被害をもたらしてきた「病原菌」について、16〜17世紀のアメリカ大陸を襲ったパンデミックの悲劇を振り返ってみます。
1492年のコロンブスによるカリブ海諸島の発見を機に、ヨーロッパ人がアメリカ大陸を征服していくことができた理由には、銃や鉄製武器、騎馬などの軍事技術や航海技術と並んで、病原菌の存在がありました。ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘や麻疹、インフルエンザ、チフス、ペストなどは、当時免疫を持たないアメリカ先住民の間で蔓延し、大量死による人口激減を招きました。疫病の蔓延は、征服者による殺戮以上の被害をもたらしたとされており、17世紀末までの200年間でアメリカ先住民の人口は約2000万人から約100万人まで激減したと推定されています。
元来、家畜間でしか感染しなかった病原菌が人に感染して変異した結果、高熱などの急性症状を伴い、感染力が増大したものです。9000年前から家畜を使って農業を発展させてきたヨーロッパ民族は、長い期間をかけて多大な犠牲を払いながら免疫を身につけてきました。天然痘は西暦165~180年にローマで流行し、ペスト(黒死病)は西暦542~543年と1346~1352年の2度、ヨーロッパ全土でパンデミックを引き起こし、それぞれ数百万人以上の犠牲者が出ました。病原菌に対する抵抗力(特定の遺伝情報)を持たない者は、自然淘汰されて子孫を残すことができませんでした。その結果として、歴史上、繰り返して同じ病原菌にさらされてきた民族は、ほかの民族に比べて高い抵抗力を持つことが知られています。
コロナの蔓延が示すように、外来種の病原菌は、飛行機の速度で国境を越えて移動してきます。日常の生活に気をつけて、免疫力を高く維持し、健康的な生活を送りたいですね。
大航海時代を記念した記念碑「発見のモニュメント」