自然食品やオーガニック食品を取り入れるようになってから、味噌や醤油も商品によって
値段が大きく違うことに驚いています。
その違いを教えてください。
(スーパーのセール品に不安を感じはじめた主婦)
A.原料の質と手間暇かけているかどうか
答える人 岸江 治次
スーパーで売っている安い味噌や醤油と比べると、自然食品のお店で売っている味噌や醤油は値が張ります。
この値段の違いの要因のひとつが原料です。
味噌や醤油に共通して使われている原料に大豆があります。
大豆は昔から「畑のお肉」といわれ、重要なタンパク源となってきました。
大豆のタンパク質は、そのままでは体に吸収しにくい性質があり、味噌や醤油のように発酵させることで、体に吸収しやすい状態に変化させているのです。
昔ながらの製法で作った味噌や醤油の原料には「丸大豆」といって、大豆をまるごと使っています。
しかし、安い味噌や醤油の原料には、大豆から油を搾った後の「脱脂大豆」という、いわゆる大豆粕を使ったものが増えています。
脱脂大豆を使うことで、原料を安く抑えることができるだけでなく、油分がないので加工がしやすくなります。
しかし、脱脂大豆は手軽に、時短で作れるものです。
それを原料にして作った味噌や醤油は、丸大豆で作った味噌や醤油と比べると味が劣るため「アミノ酸等」や旨み系の化学合成添加物が使われることになります。
昔の人は醤油を正油と俗称することで、脱脂大豆が蔓延する事態を危惧していたのかもしれません。
そのほかにも原料に丸大豆を使っていても、それが安い輸入大豆ということもあります。
輸入大豆の問題は、現在の日本の法律では(2018年11月時点)、遺伝子組み換え大豆が全体の5%以内であれば、原料に含まれていても表示の義務がないということです。
さらに海外から運んでくる間に虫がつかないよう、収穫後に農薬が使われるポストハーベストの問題もあります。
大豆のほか、醤油に使われる小麦なども同様です。
原料のほかに値段の違いの要因となるのが製法です。
味噌や醤油を作る際、大豆の発酵に使われるのが、日本の国菌ともいわれる「麹菌」です。
麹菌で大豆を発酵して味噌や醤油ができるまでには長い時間が必要です。
醤油は「二夏」といわれ、おおよそ二年かかります。
昔ながらの製法では、麹菌が一年を通して、夏は活動が活発になり、冬は活動が緩慢になる季節の変化を利用しています。
ところが、安い味噌や醤油では、発酵の時間を短くする「速醸」という製法が使われます。
麹菌は温度が上がると活発に活動するため、人工的に温度を上げ下げすることで、麹菌の活動をコントロールするのです。
この速醸では、本来製造に二年かかる醤油が、半年も経たずにできてしまいます。
ただしこの方法では、結果的に余計な化学合成添加物が多数必要になります。
短期間に麹菌を酷使することで、麹菌の持つ本来の力が弱くなります。
きちんと時間をかけて発酵させた味噌や醤油は、保存食品といわれるほど、何も加えずに日持ちするものです。
一方、速醸で作った味噌や醤油は、カビや雑菌がつきやすく、それを防ぐために防腐剤やアルコール、酒精の添加が必要になります。
また、速醸で作った醤油は色が薄く仕上がるので、カラメル色素で色を加えることも多いです。
時間をかけて発酵させた味噌や醤油は、塩がなじんで自然な甘味が出てくるのですが、速醸で作った味噌や醤油は、舌にピリッとくる、いわゆる塩角がついてしまいます。
そのままだとおいしくないので、砂糖や人工甘味料などを添加して甘味を加えます。
昔ながらの原料と製法で作られた味噌や醤油と、安い原料と速醸で作られた味噌や醤油の違いは、原材料を確認すれば一目瞭然です。
時代とともに食生活は変化してきましたが、味噌や醤油は、やはり日本人にとって欠かせない調味料であり、ほぼ毎日使うものです。
人間の体には60兆の細胞があり、それらは日々入れ替わっています。
味噌や醤油のように日々摂り入れるものは、日々血肉となっていくため、健康に大きく影響します。
昔ながらの味噌や醤油には「スーパーフード」的な働きもあります。
安い味噌や醤油を選ぶことで健康や美容にどういう影響があるのかを考えたうえで、食品選びをしていただきたいと思います。