この原稿はイタリアで書いています。年に数回、現地に赴き生産者と直接やり取りをしているのです。自家製オリーブオイルの生産にあたり、取扱アイテムの生産状況を把握し、問題改善点を交渉するためです。ここ数年は天候の変動が激しく、思うように農産物ができない状況にあります。気候条件に大きく左右される有機栽培や自然栽培の生産者の苦労は相当なものです。現地の状況を、この目で見て生産者を理解することが私の仕事の一つでもあると思っていますが、この目で見て話を聞くことで、想像以上に学ぶことが大きく、次につながっています。
今回は、一番アクセスの悪い(行きにくい)イタリア南部で、トマトソースや野生のオレガノを生産しているアントニオさん宅に久しぶりに訪問しました。アントニオさんのお母さんと久しぶりに話ができ、とても興味深い話を聞くことができました。
昔は酸化したオリーブオイルを食べていた!
オリーブ果実は、目の細かい大きな網をオリーブの木の下に敷き、手や小さな熊手のようなものでオリーブの実を枝からしごき落とすという手法で収穫します。その網に落ちたオリーブを集めてコンテナーに入れて搾油所に運ぶのです。
この枝からしごき落とす収穫時期がオリーブオイルの味と風味に大きく影響し、適度な辛みと苦みがあり、甘みのバランスがいいものが良質のオリーブオイルとして評価されます。毎日収穫してすぐ搾油所に持ち込み、早く搾るほど良いものに仕上がります。上質なものは約24時間以内に搾られ、酸化しないように専用のタンクで保存されます。
ところがアントニオのお母さんによると、40年以上前はこのような網はなく、完熟して自然に落ちるオリーブの実を拾い集め、それを搾油所に持ち込んていたそうです。しかも今のようにトラックもないため、数日間かけて拾い集めた果実を、まとめてロバに積み搾油所に持ち込んでいたそうです。よく考れば想像ができることですが、完熟して落ちた実を拾い集めていたことに驚きました。
また、現在の搾油所は酸化のリスクを最小限にとどめるシステムになっていますが、昔は人力と動物による動力だったため、搾りも時間がかかったそうで、できあがったオイルは、今のような味ではなく、おいしいものではなかったとお母さんは言います。豚を飼い、保存肉(ハム)を加工する後に残るラードとオリーブオイルを約半分ずつ、料理に合わせて使用していたそうです。現在のものとは比べものにならないような「油脂としてのオリーブオイル」だったと眉間にしわを寄せて話すお母さんの話に、私はびっくりしました。ある意味、酸化しているものを食べていた、ということがわかったこと、そういうものが八千年も前から廃れることなく使い続けられていたということが、とても意外だったのです。
昨今、油の酸化の問題がクローズアップされていますが、この酸化とは一体どういうことなのか、と私はお母さんの話を聞いて疑問を持ちました。「人にとって油脂とは一体なに?」は、これからの私の課題にしたいと思っています。
「変化」を「進化」にするのが人間の愛と叡智
お母さんの時代のオリーブオイル、そして、もっともっと以前のオイルを想像すると頭が疑問符だらけになりますが、数千年前より人と寄り添ってきたオリーブオイルです。これからも、また変化していくのかもしれません。オリーブオイルだけでなくすべてが変化するのが世の常。「変化」を恐れず、それを「進化」に変えていくのが人間の叡智と愛なのではないでしょうか。良い進化のために、私はさらに突っ込んでオリーブと寄り添っていきます!
アサクラ 代表
朝倉 玲子
(あさくら れいこ)
一般企業、有機農業に携わった後、イタリアに滞在し有機農家民宿やミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。オリーブオイル鑑定技能講座で学び、オリーブオイルの素晴らしさに開眼。本物のシングルエステートを探し、エキストラバージン・オルチョサンニータと出会い、故郷会津若松に戻り輸入開始。オリーブオイルの良さと使い方を伝えている。
http://www.orcio.jp