1月に還暦を迎えた私にとって、今年は特別な一年間であったということと、今後の決意を今号で書かせていただきます。おかげさまで講演や執筆の機会を多数頂戴し、充実した一年を過ごせました。なにより地道におこなってきたPBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材を可能な限り精製加工しないで食べる)で病気を予防し治療することをお伝えする活動に対して手応えを感じられた一年でした。
　
すべての始まりは、2011年3月11日の東日本大震災に伴う原発事故により、食の安全に目を向けたことでした。今考えると恥ずかしい話ですが、以前は医者でありながら食と健康を関連付けて考えたことがなかったのです。自分自身の食生活も不健康でした。「食べるものを見直す」という入り口に立った私は、身体によい食についてあらゆる分野を学び、栄養学のバイブルともいえるコリン・キャンベル博士の共著『The China Study』に出会い、健康によい食事はPBWFだという結論に至りました。PBWFによる健康効果を証明した学術研究が多数存在し、信じるに値すると確信したからです。

チャイナ・スタディーの10年間

アメリカで2005年に『The China Study』が出版された際、著者の一人であるコリン・キャンベル博士は、これでPBWFが最善の食事方法であるとアメリカ国民に知らせることができ、多くの人々が健康になると確信されたといいます。しかし思ったようにPBWFは普及しませんでした。そこで博士はその理由について述べた『WHOLE』を執筆されたのです。
　
『The China Study』は日本で2009年に邦題『葬られた「第二のマクガバン報告」』として出版されました(2016年には合本版『チャイナ・スタディー』として出版)。それから10年が経過しましたが、PBWFについてアメリカ同様に日本国民にも周知されるに至っていません。そればかりかこの10年の間に糖質制限ダイエットが大流行してしまいました。糖質を極端に制限し結果的に動物性たんぱく質過多になる糖質制限ダイエットは一時的に減量効果が見られる場合があるようですが、健康に害を及ぼすリスクがあり、そのことを証明する学術研究も多数存在します。
　
健康は豊かな人生を送る上でなにものにも代えがたいものです。PBWFの食生活を送っていれば自然にベストのウエイトを獲得・維持できるのに、命の危険を冒して一時の減量効果を得る意味があるのでしょうか?

知らせる役目

食と健康について一人でも多くの人に知っていただくのは医師である私の責務と思い、日本の皆様向けに書籍や情報の翻訳、講演活動を積極的におこなっています。前述の『WHOLE』も翻訳が完了し、来年早々に出版予定ですので、来年はその内容についてお話しできればと考えています。
　
世の中にはPBWFと健康についての情報がたくさんありますが、医学部には栄養学講座がありません。日本の医師は栄養学を学ばず、食で健康を獲得する概念を持ち合わせていない場合がほとんどです。もし、食事で改善できる疾患があることに気付き臨床に応用しようとしても、日本の保険医療制度下では「薬を使わず病気を食事で治す」という治療に対する診療報酬が労力に見合ったものではなく、実践は困難なのです。

新たなスタート

そんななか、日本の医療を変えることができるかもしれない嬉しい依頼を頂きました。会員数2万6千人を誇る日本最大の医学会・日本循環器病学会で、来年3月にPBWFについての講演依頼を受けたのです。このほかの医学会でも講演依頼を頂いています。これらを日本の医療に風穴を開ける新たなスタートにできればと願っています。