私はPBWF(プラントベースホールフード)で健康が維持増進できると伝え続けています。PBWFは成長期においても成長と発達に充分な栄養の獲得が可能です。前号で妊娠・授乳期においてもPBWFの食事を適切な時期に適切な量を増やすだけで栄養管理ができ、肉や魚、乳製品を食べる食事に比べ、環境毒素や食品汚染、病原体、外来性ホルモンが体に入るリスクを軽減すると書きました。妊娠中の植物性の食事はアメリカ栄養士会、アメリカ産婦人科学会でも推奨されています。今号からは妊娠・授乳期に特に注目される栄養素について触れていきます。
葉酸
葉酸はビタミンB群の一種で、造血やアミノ酸合成など細胞を作るのに必要不可欠な栄養素です。細胞分裂が正しくおこなわれるために必須であることから、妊娠期において特に重要視されます。細胞分裂が盛んな妊娠初期に不足すると胎児の先天異常である神経管閉鎖障害の発症リスクが高まることが知られており、妊活中と妊娠中の女性をターゲットに、盛んにサプリメントのセールスがおこなわれています。葉酸は植物性食品で簡単に摂れるため、よく考えたPBWFの食事をしていればまず不足の心配はありません。もし葉酸をサプリメントで摂取するなら天然葉酸「Folate」と合成葉酸「Folic Acid」があることを知る必要があります。Folateは不安定なため、日本のサプリメントには合成葉酸Folic Acidを使用して作られていることが多く、一般には天然葉酸Folateと合成葉酸Folic Acidの区別なく「葉酸」として認識されています。
天然葉酸Folateのほとんどが消化器官で活性型葉酸の5-MTHFに変換され血中に入る一方、合成葉酸Folic acidは消化器官で変換されないまま血中に入る割合が高く、肝臓やその他の組織で活性型の5-MTHFに変換され初めて利用されます。世界人口の30〜45%はFolic acidを活性型葉酸(メチル葉酸)に変換できないという研究があります。変換されなかったFolic acidは血中に蓄積されナチュラルキラー細胞活性を低下させ癌や感染症の原因になるという研究もあります。WHOは「1日400μg以上の葉酸を食品で摂る」ことを推奨しています。葉酸をサプリメントで摂りたければ活性型葉酸である「5-MTHF」「メチル葉酸」などの表記のあるものを選ぶようにします。
鉄
妊娠中は血液量が増加することと胎児の発育のために鉄の必要量が1日18mgから27mgに増加します。内容に気を配ったPBWFの食事を摂っていれば鉄不足を心配する必要はありませんが、もし鉄欠乏になった場合には錠剤の使用が検討されます。鉄には動物性食品に多く含まれるヘム鉄と野菜に多く含まれる非ヘム鉄があり、一般には吸収率が高いとされるヘム鉄を使用する傾向にあります。しかし、ヘム鉄は鉄過剰になっても吸収され続けてしまうという性質があり、さらに一旦過剰になった鉄を体内から排泄するのは困難です。鉄は活性酸素を発生させ体内に炎症を起こし、癌や肝障害などさまざまな病気を引き起こす毒性の強い物質でもあるので、漫然とヘム鉄を摂り続けるのは危険です。一方、非ヘム鉄は腸管からの吸収を体が調整してくれます。鉄は鉄を多く含む植物性食品から摂るのが一番良いのですが、ヘム鉄の錠剤を摂る場合は専門家のフォローアップが必要です。
今号ではまず、妊娠中、特に注目される二つの栄養素について書きました。葉酸と鉄はサプリメントで補う傾向がありますが、安易に使用を続けると栄養補給どころか体に害を与える可能性があります。お腹で赤ちゃんを育てる女性は食事の適切なCHOICEを身につけることがとても重要です。