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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

観察することからはじまる

投稿日:

診療所に大きく茂ったブラックベンジャミンの木がある。あるとき、その葉から粘性の樹液のようなものが出始めた。おかしいと思い、観察していたところ、コーヒーの実を小さくしたようなカイガラムシを発見した。しかし、発見したときには、もう手遅れだった。なぜなら、木が元気に育つ勢いよりカイガラムシが増殖する勢いのほうが優っているようだったからだ。そこで、葉についたカイガラムシをひとつずつ手で取り、粘性の樹液に覆われてしまった葉を水で丁寧に拭き取った。そして、葉の表面にニームのオイルを一枚ずつ薄く塗ってみた。

花屋の友達に相談したところ、虫が増殖する勢いを減らすために少しだけでも薬を使ってみてはどうかと薦められた。植物を室内に置いておくと、どうしても風が不足してしまい、湿気が抜けにくく根腐れが起こりやすい。また、季節によっては植物が心地悪そうに見えることがある。植物に申し訳ないと思ったので、その友達のアドバイスを受け入れて、虫を減らすために土にまく薬を使うことにした。

すぐに結果がでないので諦めそうになる瞬間もあったが、カイガラムシを見つけては取り、葉を拭き、ニームのオイルを塗る作業を根気よく繰り返した。すると、しばらくしてカイガラムシが少なくなっていることに気がついた。葉からはもう樹液のようなものは出ていない。新しい葉がすくすく育って出てきていた。そこで空気が通りやすくなるよう大きく茂った葉や枝を大胆に刈り込み、思い切って室内からベランダに移した。すると、陽射しや風、雨に、ベンジャミンの木が喜んでいるような感じがした。そして、半年後には再び葉が茂って元気な木に戻った。

自然から学ぶこと

植物に虫がつくのは、弱っているからだ。そして、虫の勢いを減らす方法としては、虫を減らす薬を使うか、植物を元気にして虫が寄りつかない状況を作ることが考えられる。これまで虫だけを減らそうとして薬を使い、元気が戻らず諦めた観葉植物は少なくない。これらの植物の様子を見ていると、私たちが困った症状を見つけたときに、どんな心構えでいるといいのかを、教えてくれているような気がする。悪いものを敵視して、完全に排除しようとアプローチするのか、悪いものの勢いを少しだけ抑えるのか、または、そもそも悪いものがいられないように、生体の元気をみなぎらせるのか。

すぐに変化が出ないことのほうが多いので諦めそうになるかもしれない。しかし、生体がより良い状態になるためには、今できることを丁寧に、地道にやり続けていくことが大切なのではないだろうか。それによって微かな変化が出てくる。そのような取り組む姿勢はより良い状態になるための助けになるよと、私はベンジャミンの木に言われているような気がした。

もしなにか気になることがあれば、丁寧に観察してみること。私たちはそこから大切なことを学ぶチャンスをもらっているのではないだろうか。日々、自然から学び、それを積み重ねていくことが、もやもやの多い今を心地よく生きていくための助けになるような気がしている。

童謡「ゾウさん」を作詞したまどみちおさんの言葉に「どんな小さなものでも みつめていると 宇宙につながっている」がある。大好きな一節でときどき思い返している。近ごろは、ふと思いにふけるような余白の時間を持つことは、意識しないと見つけにくくなってきている。新緑の葉を見ながら、空の青さやさまざまな形に変化する雲に心を寄せる時間を、都会のなかにいても忘れないでいたい。

生きていくなかで、大切なことを教えてくれる植物に、「ありがとう」という思いを寄せながら、植物を観察し、そこから学ぶ楽しみを、これからもひっそり続けていこうと思う。

- ながれるようにととのえる - 2024年6月発刊 vol.201

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