きのくに子どもの村通信より 学校づくりのこぼれ話(10)自由学校のひろがり
学校法人きのくに子どもの村学園 〒911-0003 福井県勝山市北谷町河合5-3 |
がけすべり禁止?
「では、崖はすべってはいけない、と決めていいですか。」
議長が確認する。一斉に「はーい」と声が上がる。
議長「じゃ、みなさん、これからは、あの崖ではすべらないでください。」
再び「はーい」という声が響く。「あの崖」とは、10周年広場の西側の急斜面だ。40度以上もある。だれかがすべった跡がある。危ないからやめようという。子どもからの発議だ。
私がそろそろと手をあげる。
議長 「はい、堀さん。」
学園長でも「さん付け」だ。先生と呼ばれる大人はいない。
堀 「あの崖をすべりたいという人は、いないのかなあ。」
議長 「すべりたい人はいますか。」
何人もの子が「はーい」と応じる。女の子も混じっている。
議長 「では、あの崖をすべりたい人は手をあげてください。」
半分以上の子が手をあげる。小学校の男の子は大部分だ。
堀 「こんなにたくさんいるんか。何かいい方法があるといいね。」
議長 「いい考えのある人はいませんか。」
ポツポツと手があがる。話し合いのやり直しだ。今年度の初めの全校集会のひとこまである。
長いすべり台を作ろう
あれこれ意見が出て、けっきょく、すべり台を作るといい、ということになる。だれかが「工務店にたのんではどうか」と提案する。もちろん子どもの村の工務店のことだ。
議長 「工務店では、あの崖にすべり台を作れますか。」
工務店の子 「作れるかどうか。作りたいかどうか。クラスでミーティングしないと何ともいえません。」
一週間後、工務店から「二学期に作ります」という回答がくる。みんなで盛大に拍手して、この件はめでたく落着。どんなすべり台になるのだろう。かなりの難工事が予想される。
楽しみな話し合いを
ミーティングには問題の処理という役目もある。しかし、意地悪された。悪口いわれた。物をこわされた。盗られた。通学の電車でさわいだ………といった案件が続くと「あーあ、またミーティングか」という気分になる。雰囲気がくらい。
くらい議題が続くと、安全で無難な結論に走りがちになる。今回の崖すべりがいい見本だ。崖すべりを禁止すれば危険は避けられる。大人も安心できる。しかし禁止するだけではつまらない。自由学校のミーティングとしては情けない。大人の考えを子どもが先取りするような話し合いは、もっとつまらない。ミーティングをする楽しみがない。
ミーティングのもっとも大事なねらいは、子どもの失敗や問題行動の後始末ではない。自分たちの生活を自分たちで「より楽しく、より自由にする喜び」を味わい、そのための力をつけるのが大切だ。崖すべりは危険だからやめようというのでは、たとえ子どもが納得しても、たいしたミーティングとはいえない。こういう時、こどもたちの目がより積極的な方向へ向くように、控えめにうまく介入するのは、自由学校の大人の大切なつとめである。
子どもも大人も話し合いの練習が必要
きのくにが開校した時は、全員が転入生だった。話し合いで決めるという経験がほとんどない。人の話を聞いて意見をまとめる練習をしていない。全校集会が自分たちにとって有意義だという実感もない。だからものすごく騒がしかった。もちろん議長も慣れていない。意見が二つ出ると、すぐに多数決に走る。今とは月とスッポンである。
大人も慣れていなかった。
◇子どもの話に口を出すまいとして、ひとことも発言しない。
◇大声で発言する。
◇途中で「あとは大人で決めるから」と話し合いを打ち切る。
◇ミーティング中に船をこぐ。
◇子どもに話しかけられると応じてしまう。
◇発言が長い。脈絡がはっきりしない。声が小さい等々。
ミーティング上手とは
私は、大人たちにいくつかの注文をつけた。まず三大原則。
1.真剣に話し合いに参加する。真剣さを態度(発言、まなざし、相づちなど)で表わす。
2.議論が交錯したら、交通整理をする発言をする。
3.発言は短く、長くても一分以内で。一つの文は、活字にして70文字以内。そして、しかし、なぜなら、などでつなぐ。
つづいて小原則。
◇落ち着かない子は抱っこする。
◇意見が対立したら、第3の道も模索する。
◇目立たぬように後方にすわる。
◇票決では、少し遅れ気味にそっと手をあげる。
◇ユーモアが大事。時にはボケ発言をして盛り上げよう。ニイルは、これが得意だったらしい。