答えのないことを考えない
漢方薬を学び始めたときに、師匠から「桂枝加竜骨牡蛎湯という薬は、考えすぎ、頭を使いすぎている人に合う」と教えていただきました。漢方薬がこころに効くと知ってさまざまな患者さんに処方していくなかで、この薬が効きやすい人の特徴がわかり、心の仕組みを知る手がかりになりました。
この漢方薬が合う人は、遠慮がちで自己主張が苦手です。思っていることがないわけではなく、意外と他人には批判的かもしれませんが、それを伝えることが苦手です。自分のことは後回しにして、人のために尽くす方が楽だと感じてもいますが、やりすぎて疲れやすいことが多いです。心にため込みやすく、ギリギリ限界まで我慢してキレる場合もあります。キレられた方は、普段おとなしい人が、突然キレることに驚きます。以前からずっと不満があったことなど知らないし、不満があれば、そのとき言ってくれればよかったのにと感じます。
この漢方薬が合う人へのアドバイスは、基本は「考えても答えの出ないことは考えない」です。考えすぎていると眠りが浅くなります。睡眠中、脳は日中にあった出来事をおさらいして、情報の整理をしています。整理するべき情報が多くなると、睡眠中の作業量が増えるため、睡眠の質が落ちます。考えごとも整理するべき情報として取り扱われるため、考えごとが多くなると、夢を見やすくなったり、途中で目が覚めたり、寝ても寝ても眠たいと感じたりします。
脳は優秀なコンピューター
脳は自分が思っている以上に優秀なコンピューターです。答えが出ることは、即座に計算して答えを出してくれます。たとえば、仕事や掃除の順番はどうすれば効率よくできるか?というのは、瞬間的に答えを出して当たり前のように実行しています。しかし、答えが出ない問題を考えようとしたときに、人間の頭は一生懸命答えを出そうとぐるぐる考え続けます。「過去のことをどうにかしたい」とか「この先どうなるのだろう」といった問題は、答えがないので、いつまでも思考が止まりません。
頭脳という優秀なコンピューターは、優秀すぎて(!?)「答えが出ない」という答えを出してくれません。脳コンピューターは、優秀だけど不器用です。けれども適切な質問をしてあげると、すぐに答えが出ます。「この問題に答えはあるか?」です。瞬時に「答えなし」とわかります。考えごとが止まらないときにはまず「この問題に答えはあるか?」と自問自答してみましょう。
もう一歩踏み込んでみると、このタイプの人は、他人の機嫌を気にしすぎています。人の機嫌を損ねてはいけないと思っているので、思ったことを言うことができなくなっているのです。言いたいことが心にいっぱい溜まってしまうので、気持ちに余裕がなくなっています。
一番簡単な対処法は、なんでも話せる友人に、愚痴を全部聞いてもらうことです。あらかじめ、今から愚痴を言うから、何も言わずに聞いてね、と言ってから、溜まった不満を全部言いましょう。もし愚痴を聞いてくれる相手がいない場合は、全部紙に書きましょう。汚くても、あとから読めなくても大丈夫。そのときの気持ちをとにかく書くとスッキリします。
一番根本的な解決法は、嫌な思いがしたら、すぐその相手に言うことです。コツは自分の気持だけを言うこと。「そう言われると私はとてもつらい」「私は悲しく感じる」「寂しい」などです。相手をコントロールする言葉は、なるべく使わないようにしましょう。言えると癒えます。みな本当は優しかったと気づきます。