最近多くの方に処方している漢方のなかに、柴胡清肝湯という、とても苦い薬があります。お薬の添付文書には「癇の強い傾向のある小児の次の諸症: 神経症、慢性扁桃腺炎、湿疹に効果がある」と書いてあります。
漢方を学んでまだ経験が浅いころ、柴胡清肝湯で気の流れがよくなると推測されるお子さんがいました。その子の遊び方が特徴的で、診察中に脇目も振らずミニカーを何台もきっちりきれいに並べていました。親御さんに「この子はこだわりが強いですか?」と聞いたところ「はい、こだわりが強くて、邪魔をすると、すぐにイライラして癇癪を起こします」と教えてくださいました。
それ以降、柴胡清肝湯が合う方に聞くと、ほとんどの方が、なにかしら強いこだわりがあることがわかりました。整理整頓に限らず、頑固である、物の貸し借りをきっちり覚えている、お金の管理がきっちりしているなど、さまざまなこだわりがあること、また、子どもだけではなく、強いこだわりがある大人の方にも、柴胡清肝湯がよく効くこともわかってきました。
人は大きく2つのタイプに分けられます。マルチタイプと集中タイプです(参考文献:『お母さんが幸せになる子育て』心屋仁之助・著)。マルチタイプは、頑張ればなんでも平均的にできるようになるタイプです。集中タイプは、得意なことと、苦手なことがはっきりと分かれるタイプです。経験的には、集中タイプとマルチタイプの人数は、およそ半々です。
集中タイプは、好きなことをしているとき、周りが見えなくなるし、時間の感覚もわからなくなります。気づいたら、もうこんなに時間が過ぎていた! ということが多々あります。柴胡清肝湯が合う人は、ほぼ集中タイプです。
ボーッとする時間が大切
最近、柴胡清肝湯を処方するときに、とくに強調して説明しているのが、ボーッとする時間を作りましょう、ということです。
集中タイプの方は、基本的に、人と人のつながりの外側にいるのが心地よいと感じます。誰かと関わりを持っている状態は、思っている以上にエネルギーを消費してしまいます。
周囲のことを忘れて、一人でボーッとしている時間が充電タイムです。人によって、ボーッとする、スイッチを切る(切れる)、シャッターが閉じる、真っ白になる、真っ暗になる、意識が飛ぶ、など表現はさまざまですが、周囲との関係性が切れている意識状態のことです。
忙しくて、ずっと周囲に気を配っていると、どっと疲れてしまいます。意識してボーッとする時間を作らないと、疲労が蓄積していきます。トイレに行ったときや、ちょっと水分補給するときなどに、すぐ作業に戻らないで、5分くらいでも意識を切って、なにも考えないor自分の好きなことを妄想する時間を作りましょう。
柴胡清肝湯が合う患者さんに「もう、いっぱいいっぱい! いろいろ私に言わないで! ほっといて!」という気分でしょ? と聞くと皆さん「そうそう、その通り!」という反応が返ってきます。
こだわりを疑う
これらの反応を返す方にはおそらく、幼少時にきちんとした母親から許容範囲を超えた指示を与えられたときに、特定のものに意識を集中させてやり過ごした経験があるのではないかと、想像します。「こだわり」といわれる行動に逃げることで母の攻撃をかわすことができた、という成功体験が無意識領域に刷り込まれている可能性があります。
そのため、そのこだわりは、本当はそれほど好きなことではないかもしれません。とりあえずは、こだわり行動でストレスを回避してもよいのですが、できれば自分の本当に好きなことを見つけて、そちらにエネルギーを集中することを、おすすめしています。