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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

「禁止」の魔力

投稿日:

先日、スタッフの結婚パーティーに呼ばれ、その際に乾杯の音頭をとってほしいとのご指名をいただきました。私がセミナーなど人前で話すときには基本的になにも準備せず、その場で思いついたことを話すだけなのです。歳を重ねるうち、幼いころは赤面症でちょっと緊張すると顔がすぐ真っ赤になるので「赤ちゃん」というあだ名をつけられたのがウソのように、私の心臓に毛が生えてしまい、聴衆が何人でも緊張するという感覚がなくなっていました。さすがにこのようなおめでたい席では絶対に失敗が許されないと思い、事前にスピーチする内容を考えて、暗記することにしました。とくに、結婚の席では使ってはいけない言葉である忌み言葉があり、関西人で皮肉たっぷりに話す癖がついている私の場合、つい言ってしまいがちなため、そこには注意することにしました。
 
ひとしきりおめでたい祝福の原稿を書き上げ、あとは間違えないように暗記しなければなりません。忌み言葉を使わないように慎重に書いた原稿のはずなのですが、音読してある程度暗記してから改めて聞いてもらうと、スピーチの最後のほうにある「ますますの幸いがありますよう願っています」の「ますます」が忌み言葉にあたると指摘され、「より一層」がこのような席での言葉として正しいと教えられて、私の頭の中は真っ白になってしまいました。準備して、記憶してなにかを話すという習慣が失われてしまい、そのうえ乾杯の音頭なので原稿を読むわけにもいきませんから、私の脳内は大忙しです。その後、「ますますと言ってはいけない」「ますますと言ってはいけない」「ますますではない、より一層だ」とくり返し自分に言い聞かせ、何度も暗唱して式場に向かいました。開式からまもなく、私の名前が呼ばれました。私は「ますますと言ってはいけない病」の患者ですから、私のプロフィールが紹介されているあいだも「ますますと言ってはいけない」しか記憶から出てきません。ますます、ますますと考えているあいだに、もう話すタイミングです。「ただいまご紹介にあずかりました……」と話し始めたのですが、やっぱり「ますますといってはいけない」が脳の深いところにあり、スピーチ終盤、「ますますの……」と言ってしまったのです!
 
もう、そこからはほとんど記憶がありません。「ますますの……、より一層の幸いがありますよう」と、リカバーはしたものの、いちど口から出てしまった言葉は消えません。こんなにおめでたい、素晴らしい式だと心底思っているのに、言ってはいけないことを言ってしまったゆえの罪悪感。「かんぱ~い!」とグラスを掲げたあとの手が震えて止まりません。これは単なる私の失敗談であると同時に、人にしてほしくないことをしてもらうためには禁止すればよい、という実に簡単な秘訣なのです。

ダメ、絶対

私は年1回、人間ドックを受けています。検査そのものの是非はともかく、百人近いスタッフを路頭に迷わせるわけにはいきませんから、経営者としてのたしなみと思って真面目に取り組んでいます。私が1年でいちばん喉が渇くとき、お腹が空くときは、絶飲食が必要な検査が終わる直前です。普段は水や食べ物を摂らないタイミングでも、無性に水が飲みたくなり、食べ物を口にいれたい衝動に駆られます。ダメ、絶対、は人の欲望すらそれにシャープに焦点を当てさせる絶大な効果があります。
 
人にあれはダメ、これはダメと言えば言うほど、そのダメなことをしてくれるでしょう。逆に、子どもに勉強しろといえば勉強することが遠くなり、忘れたらダメといったら忘れてしまうのです。こんなに簡単な方法で人をコントロールできるのですから、知っておかない手はありません。私は自由な気風の溢れる京都で生まれ育ち、制服のない高校に通っていましたから、みんな私服は地味でした。服装でのもめごとなど一度も見聞きしたことがありませんし、派手な格好をしてくる人などいませんでした。高校生活動で他県の高校生に会うと髪の毛がどう、スカートがどう、靴下どうなどと細かく規制されるので、当時から校則が人権問題になっていて、それと対峙していると聞かされました。より厳しい校則で子どもを縛れば縛るほど非行の芽が育ち、学校が荒れるという悪循環です。割れ窓理論などといって、軽微な違反を許せばますます風紀が乱れるという大人の考えは浅はかとしかいえません。あれをするな、これはダメと縛れば縛るほど、その呪縛から逃れようとものすごいエネルギーを発揮させているに過ぎません。私たち人間は実にシンプルにできあがっているのです。

ダメからの解放

私の「ますますと言ってはダメ」は外からの禁止ではなく、自分のなかでできてしまった固定観念でもあります。人の価値観における「あれがダメ、これがダメ」「こうあるべき、こうするべき」はコア信念と呼ばれ、自分も他人も窮屈にするだけではなく、より一層、望まない渇望や衝動を生み出します。私たちは死ぬまでにどこまで自由になれるのでしょうか? 私はもう一度、死ぬまでに赤ちゃんになりたいなと、そんなとりとめのないことを考えています。最後になりましたが、ますますお幸せに!

純植物性でコラーゲンを摂る

今もインド人は9割くらいがベジタリアン。最近は都市部で肉食する人が増えているとされていますが、それでもなおインドは菜食大国です。今までの常識でいえば、食用コラーゲンの由来といえば主に豚、健康志向のある人のチョイスでも魚やすっぽんくらいでした。肌の健康はもちろん、更年期以降の女性のQOLを高く保つには多く摂りたい栄養素。そこでインド企業と接点をもち、まったく新しい植物性100%のコラーゲン素材を直輸入しました。

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「禁止」の魔力

- 中川信男の多事争論 - 2023年7月発刊 vol.190

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