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中川信男の多事争論

「多事争論」とは……福沢諭吉の言葉。 多数に飲み込まれない少数意見の存在が、 自由に生きるための唯一の道であることを示す

プレマ株式会社 代表取締役
ジェラティエーレ

中川信男 (なかがわ のぶお)

京都市生まれ。
文書で確認できる限り400年以上続く家系の長男。
20代は山や武道、インドや東南アジア諸国で修行。
3人の介護、5人の子育てを通じ東西の自然療法に親しむも、最新科学と医学の進化も否定せず、太古の叡智と近現代の知見、技術革新のバランスの取れた融合を目指す。1999年プレマ事務所設立、現プレマ株式会社代表取締役。保守的に見えて新しいもの好きな「ずぶずぶの京都人」。

お金が先か、思いが先か

投稿日:

約30年ぶりにカンボジアのプノンペンにやってきました。私がここに初めて来たとき、まだ内戦が終結しつつある段階で、ポル・ポト派の残党が市内にも残っているころでしたから、安宿で寝ていると銃声が響き渡っていたのを思い出します。その後、世界遺産アンコールワットで有名なシェムリアップに移動して素晴らしい日々を過ごしましたが、同じ時期にボートで移動していた外国人ツーリストが移動中の湖で襲撃されたニュースを見ることになり、自分がそのような目に遭わなかった幸運を感謝するとともに、内戦の爪痕の深さを実感することになりました。あれから電光石火のように月日は過ぎ、私は今、浦島太郎になった気分です。街は著しく発展し、人々は忙しく活動して、普通にここにいる限り内戦の痕跡を感じることはありません。当時も今も、カンボジアでは米ドルが主軸通貨ですが、当時は1ドル80円ちょっと、今は158円と、円の価値がほぼ半分に下がりました。あのころ、1ドルあれば充分な食事が食べられましたが、今ではコーヒー一杯も飲めません。日本の人口ピラミッドは未来が厳しいことをはっきりと物語っていますが、カンボジアはジェノサイドで大量の若者や知識人を失うという、深い傷を負いながらも、人々は相変わらず真面目で明るく活気に溢れています。これ以上強国に利用されることなく、カンボジア人の手によって発展してほしいと願っています。
 
いっぽうで、プレマ株式会社は創業からまだ25年しか経っていませんので、私がアジアの国々を目的もなく歩き回っていたころには影も形もありませんでした。そもそも、当時は起業しようとかお金を儲けたいとか、そういうことは考えたこともなく、ただ広い世界には自分の生い立ちよりももっと厳しい状況を生きている人たちがたくさんいる、という事実が私を大いに励ましてくれました。逆にいえば、人ががんばれない事情というのは、「自分が一番苦しい」と思っているときですので、この一見無意味な旅が力を充電してくれていたのでしょう。ただ、人間とは実に弱いもので、年齢を重ねていくとともにパワー不足や息切れもおきてきます。こうやって、たまに自分の今を形作ってくれた場所に再訪できることは、とても幸せなことです。

社会進化の要件

こうして私はときおり外国を旅して、どのように各国が変化していくのかを観察してきました。そして私は日本人ですので、日本の閉塞感がなにによってもたらされるかについても考察してきました。私の現時点での仮説は、「子どもを大切にする国は発展し、子どもを疎ましがる国は衰退する」という感覚です。もちろん、客観的にわかりやすいのは出生率がどうとか、人口ピラミッドの形がどうとかいうポイントですが、私がもっとリアルに感じて注目しているのは、子どもに対する大人たちの反応です。
 
日本政府は少子化が今後の国家運営において深刻な問題であるとして、いろいろな社会施策をお金で解決できる範囲に限って実施しようとしていますが、ほとんどうまく機能していません。確かに保育所がどれだけあるとか、養育に必要な費用を軽減するとかは政策としては重要であることも理解できます。しかし、5人の子どもを育て、小さな子連れで海外旅行を何十年も続けてきた私から見えるのは、大人たちが子どもに優しかった国は大いに発展し、大人たちが子どもたちを抑制しようとしていた国は徐々に衰退しているという事実です。今もプノンペンのカフェでこの原稿を書いていて、目の前で小さな二人の子どもを連れたお父さんが食事をされていますが、スタッフの皆さんがテーブルに来るたび、子どもたちに楽しそうにちょっかいを出していくのです。子育ては親の責任、または親がもっぱらその方針やしつけを決め、他人は安易に関与してはならないという日本の風潮は社会の成熟を示しているようにも見えますが、むしろ欧州の活気のある国や地域では、地元の子も移民の子もひとつのコミュニティー全体で育てようという機運が高まっていて、親だけが自分の子どもに責任を持つ、というムードではなくなっています。「多様性を大事にしよう」という心にもないお題目だけは一流な日本ですが、実際のところは自他の境目を強くしているだけです。むしろ、極端な個人主義だと半ば嘲笑してきた欧米のほうが、社会全体で子どもを育てようという政策的かつ意識変革の後押しが奏功し始めています。お金でなんとかできそうな問題だけを安易に優先させるよりも、先に意識を変化させることのほうが、より経済的なメリットも得られるというのもまた、皮肉な話ですが、私自身の経験からも、アジア諸国の経済発展の事実からも、より重要だといえると思うのです。昭和の日本が活気にあふれていた理由もまた、「社会で子どもを育てよう」とした時代だったからでしょう。私が商店街を大切にしたいと思う原因のひとつもまた、ここにあるのです。
 
※1:ポル・ポト率いる中国共産党を後ろ盾にした急進的武装勢力。1970年代、人口約700万だったカンボジア人の約4分の1にあたる約170万人を虐殺
 
※2:政治共同体、人種、民族、または宗教集団を意図的に破壊すること。現在のパレスチナ・ガザ地区でも起きている

どこにでも、なんにでも

そもそも、馬油の魅力を知ったのは娘がアトピーだったことでした。当時、お世話になっていた助産師さんから、「これ一本あれば、赤ちゃんも大人も全部の皮膚トラブルのケアができるわよ」と教えていただいたのです。その後、数ある馬油のなかでも、オメガ-3系脂肪酸「α-リノレン酸」の多い、少ないがあること、それは熱処理の方法であることも知り、最も効果の高い馬油を、戦争被害者の支援を含めて製品化することにしたのが本製品です。

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お金が先か、思いが先か

- 中川信男の多事争論 - 2024年6月発刊 vol.201

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