今回は脂質のお話です。脂質も大切な栄養素です。私たちの身体は細胞の集合体で、一つひとつの細胞の状態が良くなければ健康になれません。その細胞を構成する細胞膜の材料が脂で、細胞膜が悪い脂でできてしまうと細胞の機能も悪くなります。脂の質が細胞の質を決めるといっても過言ではありません。
摂ってはいけない油
まず「悪い油」について、以前本稿でお話ししたことを復習します。健康のために良い油を摂ることと同じくらい、悪い油を摂らないことが重要です。ここでいう悪い油とは「トランス脂肪酸」を指します。トランス脂肪酸は、マーガリン、ショートニングなど植物油を人工的に固形化した油脂や、それらを材料とする加工食品、市販の総菜(特に揚げ物)、インスタント麺などに含まれます。クッキー、チョコレート、スナック菓子、菓子パンは、原材料にマーガリン、ショートニングと表記がなくても「植物性油脂」や「植物油」とあれば注意が必要です。それらは植物性でヘルシーだと広がり定着しましたが、現在では危険性が指摘され世界の多くの国で規制や表示義務が課せられています。しかし日本では規制はおろか表示義務すらありません。考え、判断する材料も与えられていないのです。
摂るべき油
「必須脂肪酸」という言葉をご存じだと思います。細胞膜やホルモンをつくる原料となり、身体のあらゆる機能に関与する重要な栄養素ですが、ヒトの身体で合成できないため食べ物から摂取する必要がある脂肪酸です。n-6脂肪酸(オメガ6)とn-3脂肪酸(オメガ3)に分類され、オメガ6は身体の中で炎症を起こす物質に、オメガ3は炎症を鎮める物質に変わります。これらは競合して働くため、量よりバランスが大切です。現代人の食生活はオメガ6過多になりがちなので、オメガ6は摂り過ぎに注意し、オメガ3を意識して摂取する必要があります。ヴィーガンではフラックスシードやチアシード、クルミ、葉野菜などからオメガ3を摂取できますが、これらの食材から「抽出した油」ではなく、PBWF(精製や加工をしていない植物性一物全体食)で摂取することが大切と考えています。そこには、単なる「ヴィーガン」ではなく「PBWF」が重要だという、私自身の体験があります。
以前、亜麻仁油をかけたサラダを毎日食べ続けた時期がありました。そして数カ月経ったころ、たまたま受けたエコー検査で血管のプラーク※が指摘されたのです。すでにヴィーガンを徹底していましたから、「昔できた血栓では?」と反論しましたが、ここ数カ月の間に形成されたものだとの診断を受けたのです。原因として、毎日サラダと一緒に食べていた油しか思い当たることがありませんでした。いかに原料の種子や実の栄養価が高くても、油では原料をそのまま食べるほどの効果は期待できないばかりか、偏って摂取し続けると健康に支障をきたしかねないという例になってしまいました。
栄養とは食物中の無数の成分が織りなす複合的な作用です。全体(whole)は一つひとつの成分を足し合わせたものよりずっと効果的で安全です。
青魚に含まれる脂質EPA・DHAはオメガ3です。このため、オメガ3は青魚からの摂取が推奨されますが、魚は水銀やPCB(ポリ塩化ビフェニル)、放射性物質などで汚染されている場合が多く、毒物は油に溶けやすいため、お勧めできません。実はEPA・DHAは魚が合成するのではなく、藻が生成し、その藻を餌とする魚に含まれるのです。つまりオメガ3は魚から摂らなくても、藻から摂取できるのです。サプリメントでも、魚油を原料としたものではなく、海洋汚染の心配がない水槽内で栽培された藻が原料の製品もありますので、賢く選んでください。