本稿を書いている段階で、まだ千葉県下の広い範囲で停電が続いています。沖縄、九州、関東と相次ぐ自然災害で大変な思いをされている皆様に心よりお見舞いを申し上げるとともに、これ以上ひどいことが起きないことを祈っています。
「気持ち良く暮らす」とは、こんなに大変なときになんて失礼なテーマなんだ、とお思いかもしれませんが、たとえなにがあっても、ずっと苦しい思いだけを抱えていてはますます辛くなります。苦難のときよりも、何事もないときのほうが多いことが理想的であり、退屈にも感じてしまう日常のなかで「気持ちいい!」と思える瞬間が少しでも多くなるように、というのが私たちの事業の根幹になっているテーマでもあります。
もっとも大切なこと
私たちが食べ物を選ぶ際の基準は、やれ無農薬だ、やれ無添加だ、といったことを最優先にしているわけではありません。多くの自然食企業がそういったことをベースにしているのは承知していますが、もっと大切なことがあると考えています。それは、なにより「おいしい!」と思えること。そして、その「おいしい!」が、フェイク(偽物)ではなく、本物だけで形作られていること。それが、おいしかったけれども後味が悪い、やたらに喉が渇く、時間が経つと気持ち悪くなるという、安価で、いつでも、どこでも手に入る大量生産の一般品との大きな違いでもあり、もっともごまかせないところです。
この、時間が経ってから出てくる違和感のほとんどが、農薬、化学肥料、化学的・工業的に作られた食品添加物や化学調味料などの仕業です。東日本大震災に伴う原発事故のときによく揶揄された「ただちに影響はない」という言い方がわかりやすいでしょう。たしかに、食べているときはおいしく感じ、食後感もまあまあだとしても、それが積み重なっていくと、「ただちに(悪い)影響はない」という言葉の裏側、つまり「時間が経っていくと、なにが起きるかわからない」ことにつながっていきます。私たちは五感を頼りにして生きているわけですが、これだけ便利かつ、せわしない世の中になってしまうと、おいしい、おいしくない、気持ちいい、悪いなどの感覚すら狂ってきているのではないか、と疑ってかかる必要があります。合成香料入りのシャンプーや柔軟仕上げ剤の香りがたまらなく好きという人もいるわけですから、一度麻痺してしまえば味覚も嗅覚もねじ曲がってしまうのです。多くの人はその瞬間の快楽にフォーカスが向き、時間が経ってどう感じているかについて深く考えることがありません。それは忙しすぎるからでもあり、また〝インスタ映え〟に代表される見た目の奇抜さで、とても食べ物と呼べないものまで、おいしそうに感じてしまうという現実があります。
私たちは品選びの際、仕様書などの情報だけで、安全かそうでないかの判断をしているわけではありません。積み重ねた経験と人間の能力をすべて活かし「それはフェイクであるかないか」をよく見、聞き、感じようとしています。お客様に「気持ちいい!」の瞬間を迎えていただけるよう、自らの感覚と直感を研ぎ澄まし、また同時に論理性も駆使して、私たちの品選びは成立しているのです。
食品製造会社の子会社化
そんな品選びの最中、弊社の創業前後からお付き合いのあった玄米食素材の会社の社長が急にお亡くなりになり、後継者がいない、という話が飛び込んできました。もともとギャバを多く含んだ米ぬか粉や米油を販売されていた、株式会社リブレライフという会社です。最近は大豆をモンゴルの乳酸菌で発酵させた濃厚な植物性ヨーグルトや、特殊な米油を主体にした油脂系スキンケアが主力製品となっており、弊社でも販売しています。真面目な自然食企業の例にもれず、聞いてみれば経営は火の車で、とても後継ぎを探せる環境ではなかったのですが、社長が亡くなられたあともスタッフの皆さんだけで半年近く会社を動かしておられたことが私の決断を後押しすることになったのです。この会社の借入金は私が引き受け、人と設備もそのまま承継することとなりました。
10月1日から私はこの食品・化粧品工場である〝プレマラボ株式会社〟を経営することになりますが、故・町田建治社長の創業の志である「米ぬかを美味しい食糧資源として普及する」「日本食の穀物食、豆食、発酵食の魅力を示す」を踏襲しながら、プラントベースで腸内細菌や脳にやさしい品を開発していきたいと意気込んでいます。最近では腸内環境と脳は直結していると広く知られるようになっていますので、腸内細菌のバランスをよりよく保つこと、また米油に多く含まれるガンマオリザノールによる心を明るくする効果も含め、「いつでも気持ちよく暮らせる食品工場」となれるよう、智恵を絞ってまいります。今回の出来事が、真面目な品を作りながら、むしろ真面目すぎて儲からず潰れてしまうという悪循環から抜け出す一助になれるよう、また、「気持ちいい!」の連鎖が生まれる始まりとしたいと願っています。