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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

変化を乗り越える仲間

投稿日:

大学病院で眼科医として仕事を始めたころ、病院の側にある花屋のバックヤードで食事させてもらっていた。私は植物が傍で、一緒に生きてくれていることがこのうえなく好きだ。そのころは、植物を育てようと自宅に持って帰っても、すぐに植物の元気がなくなってしまうことが多かったので、花屋のおじさんに助けを求めていたのだ。元気がなくなった植物が数日おじさんの手にかかると、息を吹き返したように元気な状態で戻ってくる。仕事が忙しく植物を育てる余裕はちっともなかったのに、生きものが側にいてほしいという欲求が勝っていたのだろう。枯らせてしまった植物に申し訳なく思う。そして、花屋のおじさんが植物を元気な状態に戻してくれたことは、とても大切なことを教えてくれていたのだなぁと、最近実感するようになった。

生きものから学ぶ

なにが原因で植物の元気がないのかを丁寧に観察し、考えられることを一つずつ探っていく。日光の当たり方や根の状態、水の吸収と流れ、風の流れなど、プランターの植物を丁寧に観察し、今できることを探しながら整えていく。すると、元気になるときは元気になっていくし、力尽きたときは枯れて土に還っていく。その自然の営みは、私たち人間の営みにとても大切なことを教えてくれているように感じる。植物も動物も、生きものが身近にいてくれると、季節の移ろいも厳しさも心地よさも、ともに生きている仲間として自然の変化を乗り越えるヒントを出し合っているように思えてならない。

コロナ禍になり社会に緊張感が広がり始めたときも、無性に植物を育てたくなった。そのときは微生物の力をかりて、土づくりをすることにした。梅雨から夏に入るころ、野菜くずと米糠や油かすを発酵させたボカシ(肥料)を混ぜて、微生物がはたらきやすいように環境を調整し土を育てた。ある朝、猛烈な発酵熱を土がもっていた。ボカシを多く入れすぎたのだろう。換気をしながら、発酵から腐敗に転じないように見守ることにした。毎日、その発酵熱が広がりすぎないようにと気にかけながら外出していた。

食べ物も腐敗ではなく、発酵になっていく流れがとても大切だ。日本の風土は、梅雨から夏にかけて湿度が高く、発酵を促進する条件が備わっている。美味しい味噌も醤油も日本酒も、微生物の力を大切にしている食文化で嬉しくなる。ときどき「良い菌」や「悪い菌」などと区別されることがあるが、どうもしっくりこない。良い菌だけが増えて、悪い菌がいなくなったとしても、次の悪い菌に脅かされていく。悪い菌でも悪さをしなければそこにいていい、またはそこにいてほしいという寛容な環境が重要だということが腸内細菌の解明でわかってきた。自然界も、環境も、人間界も、都合の悪い微生物を除くのではなく多様性こそが大切で、それぞれを活かし共生していく絶妙な「ゆらぎ」を目指していきたい。今となっては何度も枯らせてしまった植物たちが、枯れることを通して大切なメッセージを送ってくれていたような気がしている。

自然の変化と薬効の変化

漢方薬は、植物や鉱物、動物、昆虫など、さまざまなものを原料として利用している。植物では、花や枝、木肌、実、種なども使うが、根っこを使うことが最も多い。薬効の視点でみても、自然環境や土、微生物の力の影響が大きいはずだ。黄檗はキハダの樹皮で、胃腸薬として利用されている。牛黄は牛に自然にできる胆石で、心臓や肝臓の助けをする生薬として利用されている。オーストラリアの山火事で牛に被害がでているように、自然の変化の影響を薬効の変化として感じることがある。今日からまた微生物に感謝しながら、一歩ずつ植物と共にある生活をしていこうと思う。

- ながれるようにととのえる - 2022年5月発刊vol.176

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