すっかり冷たい風が吹いてきましたね。冬の朝は、空気がピンと張りつめ凛と身の締まる気になります。昨年末で契約満了になりましたが、私の自宅はそれがとても感じられるところでした。賑やかな祇園から一筋入ったところにある京町家は、あまりにも静かで「シン」という音がそのまま聞こえるほどです。冷気と共にツンと鼻に入ってくる朝の香りは「まだ何も始まっていない世界」を、私が今動かしていくことを知らせているようで、神聖な気にすらなりました。
引越後、町家での朝は、冷気と静けさにたぐり寄せられるように、曾祖父の話を思い出します。それは、毎年お正月のお雑煮を食べるときに、祖母から「ひいおじいちゃまは、いつもお正月の朝、“シーハーシーハー”白い息をはきながら、寒い中ひとりかまどに火を入れ、お雑煮を用意されていたわ」という話を聞いていたからでした。私が産まれた時には、すでに曾祖父は亡くなっていましたので、その様子を知っているわけではありません。ですが、いつも私は厳格な曾祖父が着物を着て、凛と張りつめた空気の中、かまどに火を入れる姿が浮かぶのです。曾祖父は、どんな想いをもちその年最初の火入れをしていたのでしょうか。今年一年、家を支え今この瞬間から動かしていくという、身の締まる想いを持っていたかもしれません。
お部屋の寒暖、生活の中の昼夜など、なんだかぼんやりと境目がなくなっている生活を近年しているように感じます。人生がそんなぼんやりな状態にならないよう、新しい年を自らが動かしていくという、凛とした日々を過ごしたいものです。