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生物経済学事始

【Vol.20】(その2)人間、斯くも奇妙な存在

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今から16年前の事になりますが、地球環境大学なるものを創設したいという人物の依頼を受け、その設立準備委員会の一員に加わることになりました。この事業の一環として「グローバルマインド」という雑誌を発行することになり、毎号に投稿する義務を負わされ大変な苦労をさせられました。おかげで何篇かの雑文をまとめることができたのですが、その中のシリーズ物として「生物環境とストレス」というテーマで一生物学者としてありのままに見てきた経験を基に、植物、昆虫、動物についてまとめたものがあります。

生物の進化論には、ダーウインを筆頭として多くの主張がありますが、これら諸説の根底にあるものは置かれた環境から受けるストレスが進化の最大の要因ではないかと考えるようになりました。このストレスには対象となる生物にとってプラスのものであったりマイナスであったり、「禍福はあざなえる縄の如し」ということわざにもあるようにストレスもプラマイ両方に作用しますが、特にマイナスのストレスから開放されると生物種は爆発的に進化発展するようです。

南米に棲むヘリコニウスという毒蝶の仲間は身体にアルカロイド系の毒を持っているため、鳥などの外敵の攻撃を受けません。この蝶の食草は、ご存知の方もおられるでしょうがパッションフルーツという果物ができるトケイソウ科の植物で、強烈なアルカロイドを持っていて、これを食べることによって蝶の体内にこの毒が蓄積されるのです。

外敵から解放されたヘリコニウスは爆発的に分化し、近縁の種類も含めると66種類にもなる大きな属を形成するまでになりました。おまけに、トケイソウ属の400種類のほとんどが南米地域に分布し、これまた独特の分化を遂げたものとヘリコニウスの分化は深く関わっているものと思われます。面白いことに、ヘリコニウス属とは異なる別の科の蝶や蛾がヘリコニウスのそっくりさんを真似して複雑極まりない擬態集団が出来上がりました。このヘリコニウスの分化は、統一的根源的な文化と同じものと考えるべきでしょう。

その一方、人間は文明の利器によって環境のマイナスのストレスを排除し、天敵を駆逐しながら各地に独特の文化を創ってきました。しかし、ヘリコニウスが自然との共生の中で翅紋を華麗に変化させる分化によって彼等の文化を創り出したのに対して、人間は自然との非共生の中で創り出した部分が大きいように思われます。この違いによる結果は、前者が個性豊かな文化を自らの身体で表現し、周りの擬態群にまで広げ豊かな生態系を創り出したのに対して、後者は己の身体を変えることなく更なる文明の利器を発展させ、これを用いることで環境のマイナスのストレスを排除する方法を身に付けるのと平行して自然との非共生の世界へ突き進んでいくことになったのでしょう。その結果、いつの間にか食物連鎖の頂点に立つと同時にあらゆるものに対する際限もない欲望の肥大化が始まりました。

今日のような強大な文明の利器を手に入れてなかった古代の人々は古代ギリシャの牡牛信仰に見られるように力のシンボルとして他の生命を敬う心が残っていましたが、数億年という生命の進化の時間軸から考えればきわめて短い時間で他の生命に対する恐怖や畏敬の念を払拭してしまったのです。

文明を手に入れたおかげで人間は環境に対する身体能力を高めるという進化の仕方を止めてしまいました。アフリカのブッシュマンは4キロ先の動物を識別できたといわれています。しかし、今日の大都会ではこのような視力は必要ではありません。必然的に視界は狭くなると同時に身の回りしか見なくなってしまいました。環境の温度差も体にとっては大変なストレスになりますが、これに対応するために身体能力を上げることは努力が必要です。しかし、知恵を働かして冷暖房を完備すれば寒さ、暑さに耐えられる身体を鍛える必要もなく快適性は手に入るわけです。この快適性を維持するためには巨大なエネルギーを必要とします。快適性を求めれば求めるほど環境に対する身体能力は劣化して行き、これと反比例して脳の快適性欲求の度合いは亢進してゆきます。この知恵を働かせるために脳機能だけは進化してきたのでしょう。脳の機能だけで比較するとヒトとチンパンジーでは僅か1%の差しかないそうです。

この1%の差が巨大な文明社会を作り出したのですから、何とも恐ろしいことです。なぜなら、チンパンジーと同じ残り99%の脳機能は身体機能と密接な関係にあると考えてよいでしょう。この99%が機能しなくなったときを想像してみてください。SFに出てくる頭だけが大きくて、身体は縮退してしまった宇宙人の姿が現実のものになるのです。 脳と身体の調和が崩れ始めていることは今日の社会現象の中に顕在化しつつあります。パソコン、インターネットが一般化するのに40年ほどしか掛かっていませんが、これらのツールの出現によって極論ですが脳の1%しか使わない人間が40代をトップに、都市部を中心にかなりの人口割合を占めるようになりつつあります。これらの人々はますます身体を使わなくなりますから全身的なバランスは崩れて行きます。結果がどうなるかは想像してみてください。今日のアメリカに端を発した世界金融恐慌はこの結果のひとつではないかと思っています。

残念ながら予定の紙数になってしまいました。私も含めた人間という奇妙な生物について次回も続けさせていただきたいと思います。テーマである生物経済学を体系化する上でヒトという生物種の自然界での特異性を十二分に相互理解したいと思っているからです。

野村隆哉(のむらたかや)

野村隆哉(のむらたかや)氏
元京都大学木質科学研究所教官。退官後も木材の研究を続け、現在は(株)野村隆哉研究所所長。燻煙熱処理技術による木質系素材の寸法安定化を研究。また、“子どもに親父の情緒を伝える”という理念のもと、「木」本来の性質を生かしたおもちゃ作りをし、「オータン」ブランドを立ち上げる。木工クラフト作家としても高い評価を受けている。

- 生物経済学事始 - 2009年4月発刊 Vol.20

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