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生物経済学事始

【Vol.27】(その9)これまた摩訶不思議なヒトの脳(最終章)

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 咲き乱れていたコスモスも残り少なくなり、虫達が僅かになった蜜と花粉を求めて忙しく働いています。研究所の周りは努力の甲斐あって虫達の楽園になりつつあります。来年はもっと良いところにしようと、今年掘り起こしておいた水仙の球根を千球ばかり植付けました。ミヤコワスレの五百株が大株に育ち、来春は桃源郷になるでしょう。機会があれば春の花の頃にお立ち寄り下さい。

 さて、脳の話の続きですが、今回でまとめにして次回からの3回は小論の目的である生物経済学について述べさせていただこうと考えています。

 これまで述べてきたように、ヒトの脳は大脳皮質の神経細胞とシナプスの数だけでも4460兆個(4460テラ、テラは10の12乗の単位です)、小脳も含めた脳全体の神経細胞とシナプスの数はいくらあるのか見当も付きませんが、これほど脳が発達、進化したにもかかわらず、前回書いたように総じて見ればヒトの行為はチンパンジーにも劣るようなものがいまだに主流になっています。自然科学がすさまじい速度で発達し、パーソナルコンピューターのメモリー容量がギガ単位(10の9乗)からテラ単位と一挙に千倍になるというのに、ヒトという種は知・情・意の部分でほとんど進歩、進化しないどころか退歩、退化して行くのですから何ともやりきれない思いになります。

 ところが、不思議な事にこの原稿を書いている最中、一休みしてたまたまテレビを点けたところ、チンパンジーのニュースがありました。隣同士のケージに入れてあるチンパンジーに、片やケージの外にジュースを手の届かないところに置き、もう一方には長い棒を渡しておくのです。棒で引き寄せればジュースが取れることは訓練で分かっているのでしょうが、ジュースに近いほうのチンパンジーが隣から棒を借りてジュースを手に入れるという協力をすることが分かりました。血縁関係のないチンパンジー同士では54%、親子では85~90%の確率でこの協力が見られたそうです。自分にとって得にもならないことに手を貸すという感情をチンパンジーも持っているという事実の発見ですが、ヒトと同じ祖先を持つと言われるチンパンジーにも、環境のストレスを受けることで知・情・意の高度な意識が発達することが分かりました。「わが意を得た。」という思いでしたが、ヒトの人たる所以は、この知・情・意の進化、発達が他の動物より抜きん出ていることだと考えています。この三つの調和を図りながらより高度なものに発達させることによって全てのいのちの連鎖を保つことが地球上の生命の頂点に立ったヒトという種の役割だと考えます。

 脳科学は専門家に任せておいて、彼らが発見してくれる事実を踏まえながら総合的にヒトという種の理解を深めていくべきでしょう。

 仏教の教義の一つとしてインドの無着、世親等が唱えた唯識論(これは人間の精神活動の発展展開としてすべての現象を説明しようとして体系化した観念論)では、人間の意識作用を眼識、耳識、鼻識、舌識、身識、意識、末那識(まなしき)、阿頼耶識(あらやしき)の八つに分け、前の五識は知覚に関するもので、後は内面的な経験に基づくものとして分類しています。六番目の意識は、睡眠、失神などにより断絶するのに対し、末那識は生きている限り常に持続し、自我を統一する自己意識として定義し、この意識を根源として無明・煩悩が発生すると説いています。阿頼耶識は末那識の更に上位にある意識で、経験を蓄積して個性を形成し、またすべての心的活動の根源になる精神が生まれいづる基底と定義されています。経験は知識を五識によって体取することによって知恵になり、この知恵があまねく世のため人のために使われるようになると叡智になります。「体取(たいしゅ)」という言葉は、道元禅師が「正法眼蔵」という書の中で現している言葉ですが、すべての知識は、五識すなわち五体を使って経験を積み重ねることによって知恵になります。この知恵が阿頼耶識という最も人間らしい高度な場所に蓄積され、dnaの中に固定されていくのでしょう。ホモ・ストレシスという新人類は生まれながらにしてこの阿頼耶識が精神活動の奥底に埋没されてしまっており、日々のマイナスのストレスによって自律神経失調症に罹ってしまって、そのことすら分からない状態に置かれています。

 それでも、多くの人々が素晴らしいものに出会うと感動したり感激したりするのは、心の奥底に仕舞い込まれていた阿頼耶識が感動を起こさせるような大きなエネルギーによって突如として呼び覚まされるからでしょう。これを仏教では薫修(くんじゅ)といいます。

 生物経済学は、経済の本来の意味である経世済民のために、日常的に阿頼耶識を呼び覚ますような場やシステムを作り上げるにはどのようにすれば良いかという試案として提案させていただきたいと思っています。

- 生物経済学事始 - 2009年11月発刊 Vol.27

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