当院の栄養カウンセリングに関わる各種検査について順番に書かせていただいています。今号は「骨密度」についてのお話です。骨密度測定は、人間ドックや整形外科などで一般的におこなわれていて、検査の経験がある方も多いと思います。丈夫な骨を保つことはQOL(生活の質)を保つために極めて重要な要素です。
骨に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル量は20~30歳をピークに減少します。とくに女性は女性ホルモンの分泌が低下する更年期以降に骨吸収(骨が壊される)のスピードが速まる一方、骨形成が追いつかず、骨がもろくなります。骨粗鬆症患者さんに女性が多いのはそのためです。
骨がもろくなると背骨が身体の重みで潰れて変形し(圧迫骨折)、背中が曲がったり、ちょっとした転倒で骨折したりします。転倒・骨折は介護が必要になる原因のワースト5に入っていて、身体が元気でも骨折によって寝たきりになり、次に認知症を発症するなどのリスクが高まります。骨量は閉経を迎える時期から急速に減少し、70歳ごろには2人に1人が骨粗鬆症ともいわれていますので、更年期以降は定期的に骨密度測定をおこない、骨の状態をチェックすることをおすすめしています。
骨粗鬆症は増加傾向にある
食べ物に恵まれて、健康にも気を配れるはずの現代日本で、昔に比べて骨の質が悪くなっている人がいるのに疑問を感じないでしょうか。
カルシウムの多い食材を調べると、牛乳やヨーグルトなどの乳製品が上位を占め、吸収率も高いので骨のために乳製品という気持ちになるのは無理もないかもしれません。しかし米を主食として、野菜、大豆、(魚)や海藻を中心とした伝統的な日本型の食生活を送っていた時代、日本人は骨が強いと有名でした。戦後アメリカからの食糧援助をきっかけに欧米型の食事が多くなるにつれ、骨粗鬆症が増加傾向になっていることから、牛乳は骨を強くしないと容易に想像できます。世界を見てみると、乳製品を多く摂取する地域ほど骨折が多く、反対に比較的少ないか、ほとんど乳製品を摂取しない地域の人たちが総じて強い骨を持っているという研究結果が多数存在します。
牛乳が骨を弱くするメカニズムは次のように説明されています。乳製品など過剰な動物性タンパク質を摂取すると、体内に酸性の環境が生まれ、過剰な酸を中和するために、骨からカルシウムが引き出されます。次に酸とカルシウムの混合液が腎臓でろ過され、濃縮されて尿中に排出されます。また牛乳はカルシウムだけでなくリンを多く含み、リンは腸管内でカルシウムと結合するため、カルシウムの吸収を阻害することもしられています。ちなみにハム・ソーセージなどの加工食品にもリンが多く含まれ、骨を弱くするのに貢献しています。
骨密度が正常であっても、丈夫な骨とは限らず、丈夫な骨には「骨密度」と「骨質」の両方が重要です。「骨」といえばカルシウムを連想しがちですが、骨の体積の50%はタンパク質であるコラーゲンが占め、そのコラーゲンの質によっても骨の強さに影響を及ぼします。良いコラーゲンを作るためにはビタミンC、B6、B12、葉酸などの栄養素が必要となります。逆に血糖値を上げるような食事をしていると,、コラーゲンが糖化されて骨がもろくなります。丈夫な骨=カルシウムで、牛乳を飲んでおけば安心という単純な話ではないのです。
牛乳は牛の赤ちゃんのためには優れていますが、別の種である人間には極めて不自然な飲み物で、骨を弱くする以外にも健康を害する要素がいくつもあります。嗜好品として乳製品をやめられないならまだしも、健康のために頑張って摂っているなら、すぐに止めるべきだと思います。